第16話 ページ16
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「あれ、A先輩?」
西日が眩しくなった頃、自分の名前が呼ばれたことに驚いていた。しかし、その上を行くサプライズゲストにAは猛烈に母を恨みたくなった。
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課題を早々に片付けたAは冷房の効いた部屋で眠りこける日々が続いていた。
夏休み中盤、非常に時間が余っていた。
内部推薦で大学へ進学するつもりのAにとっての勝負所はここ最近まで戦っていた評定平均なわけで。
一般受験や外部受験をする学生には申し訳ないな、と思いながらただ天井を眺めていた。
そういえば毎年この時期は、家族で江の島にあるシラスのお店に行ってたっけな。受験生のAを考慮してかそれとも今年は自然と消滅したのだろうか、Aには分からなかった。
ただ、この時期の夕焼けに染る海にどうしても心焦がれている自分がいた。ような気がしていた。
あ、シラスが食べたい。う〜ん。
暇だなあ、と呟いた声が虚しく響いた。外で鳴り続ける蝉の声が羨ましく感じた。
「私も蝉になりたいな〜」
「何馬鹿なこと言ってるのA」
え?独り言が帰ってくるとは思ってもいなかったAはベッドから思い切り体を起こした。母が掃除機片手にAの扉に寄りかかっていた。
エアコンの設定温度を28度まで上げられる。19度に慣れた体にとって28度は苦行だった。
「ちょっとお母さん」
「華の女子高校生なんだから、少しは外に行きなさいよ」
「あのねぇお母さん…」
母がどこか楽しそうに部屋を掃除し始めた。
比較的整理整頓されているAの部屋を掃除する必要は、ないと言えばない気がしたが。まあそこは母の有難み、ルーティンでもあったのかもしれなかった。
いつまでもあると思うな、親と金。
「あ、そうだ」
母の瞳が弓を描いた。
危ない、母のこの顔は危険だ。Aこれから告げられるであろう未来を予感し諦めたかのように目を閉じた。
「今から江ノ島にお使いに行ってきてちょうだい」
そして、冒頭に至るわけだが。
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海から帰る観光客たちの賑やかな声と、越前の穏やかな声がミスマッチだ。Aは頭が痛くなるような気がした。
何故ここに彼がいるのか私には分からなかった。
さざ波の音が私たちのバックグラウンドになっていたということだけ、確信を得ることが出来た。
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福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます❤︎ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時