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‥
六月の昼下がりは、すこし湿気があって外でも蒸し暑い。
思えばあの日の廊下は乾いていた気がする。
もうそろそろ解散の時間なのだろう。わたし達の目の前で応援していた生徒が通り過ぎる。
──烏野高校は、強かった。
一筋縄じゃいかなくて、何度も何度も握り直した掌には爪の跡が残っている。それはまるでわたしも一緒に戦っていたかのように錯覚させる。
バレー部じゃない伊達工の生徒はもう何人か帰っているのを見かけたけど、選手たちはまだ来ないなあ。ここが出口だから必ず通ると思ったいるのだけれど。
掌の凹凸をなぞればできる人影。思えば今日一日彼ばかりを見ていた。
「二口くん」
「悪い、待たせて」
ぶんぶんと思い切り首を振る。謝る必要なんてない。
だって、彼らは表彰式の主役であったのだから。
そう。伊達工は十一年ぶりに全国への切符を掴みとったのだ。
彼らの涙も、笑顔も、すべて見たかったものだった。
「お疲れさま。全国おめでとう」
「……おう」
「ほんとうに、ほんとうにおめでとう」
喜びすぎだろ。嬉しそうに笑う二口くんを初めて見たのは、たぶん、告白された次の日。わたしが顔を赤くしたときだ。
あのときから一年以上経つ今日も、お互いの関係に名前のないまま。
言いたいことなんてたくさんあるけれど、真剣な顔をした二口くんを見たら口を閉じてしまう。
彼の真っ直ぐな視線に背筋が伸びる。
「あー、っと。白石」
「、はい」
手を首の後ろに添えながらすこしだけ視線を彷徨わせる。きっとこのあと目が合うだろう。
それは一緒にいて気付いた彼の癖だった。
「こんなに待たせて申し訳ないんだけど」
首にやっていた手で、エナメルを持ち直す。
二口くんが耳まで紅いのは、運動後だからじゃないことをわたしは知っている。
かちり、と合った瞳に吸い込まれそうになった。
「一年前、白石のことが好きだった」
「……うん」
見上げた位置から向けられる真剣な眼差しに、胸の高鳴りが聴覚を支配する。
いつでも目を見て伝えてくれる彼が、わたしはすきだ。
「でもこの一年一緒にいて、白石のことが好きで好きで仕方なくなっちまったから、責任取れよな」
ちょっと拗ねたように言われた言葉は予想外で、六月の太陽に焼かれたように頬があつい。
ああ、でもだって、二口くん。
紅い顔を隠すように彼の胸元へ飛び込んで、つぶやいた。
「そういうの、ずるい」
fin.
‥
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幸(プロフ) - あんみつさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて本当に嬉しいです……!こちらまだ単行本未収録でしたか!申し訳ないです。注意書き追加しておきます。 (2020年3月1日 9時) (レス) id: 08804b505e (このIDを非表示/違反報告)
あんみつ(プロフ) - 完結おめでとうございます!とても面白くて更新凄い楽しみにしてました!!すごいキュンキュンさせられてました!最後の方に本誌ネタがあるんですが多分単行本派の方もいらっしゃると思うので本誌ネタ注意と書いておいた方が良いかと…… (2020年3月1日 8時) (レス) id: 86e8f7f917 (このIDを非表示/違反報告)
幸(プロフ) - 橘さん» コメントありがとうございます!私の書く二口くんにときめいてくださっているのなら嬉しい限りです! (2020年3月1日 2時) (レス) id: 08804b505e (このIDを非表示/違反報告)
橘 - とても面白く二口くんにキュンキュンさせられてますww (2020年2月9日 19時) (レス) id: a7677655c7 (このIDを非表示/違反報告)
幸(プロフ) - アヤミさん» コメントありがとうございます!少女漫画のイケメンような二口くんを書きたいと思い作成したので、そう言っていただけて本当に嬉しい限りです!応援ありがとうございます、これからもこの作品を宜しくお願い致します。 (2020年1月16日 22時) (レス) id: 08804b505e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:幸 | 作成日時:2020年1月13日 19時