【wrwrd!】とある社畜外交官の憂鬱

5 ページ5

幾分か表情の柔らかくなったオスマンに勧められ、淹れたての紅茶と茶請けのチョコレートを一つ口に含む。
なるほど、これは趣味が良い。
チョコレートに合わせた味が濃い目の香り高い紅茶を出してきている。
紅茶の淹れ方もしっかりしている。
自分はこんなに上手く淹れられるだろうか、とそこまで考えて普段眠気覚ましのコーヒーばかり飲んでいることを思い出した。

「頂いたフィナンシェ、とても美味しいです。貴国のシェフがお作りに？」
『いえ、私の行きつけの店で購入しました。お口に合って良かったです。こちらの紅茶もとても美味しいですね。香りが素晴らしいです』
「ああ、それは私が淹れたんですよ」

え？と思わず目を点にするAに、オスマンは可笑しそうに笑みを深める。
外交官自らこれを？
何してるんだこの人。

「お恥ずかしながら、実は外交よりもそちらの方が得意なもので。一番自信のあるおもてなしをさせて頂いたのですが、お気に召したでしょうか？」
『も、勿論です。私なんぞの為にありがとうございます。私も自分で淹れることはあるのですが、ここまでのものはできなくて』

半分嘘だ。
昔はやっていたが、今はそんな時間があったら書類を終わらせて寝たいのが本音である。
しかしオスマンはそれを聞くと楽しそうに声を上げた。

「もしよろしければ、今度お教えしましょうか？簡単なコツさえ掴めればすぐにできるようになると思いますよ」
『本当ですか？でしたら是非ご教授願いたいですが…でもそうしたらオスマン外交官殿の専売特許ではなくなってしまいますね』

フフ、と小さく微笑を零して返せば、相手も同じように笑みを浮かべた。

「構いませんよ。美しい方には美味しい物を召し上がって頂きたいですから」







『はあ……疲れた』

帰りの馬車の中で思わず大きくため息を吐く。
目の前に座る部下が心配そうに見る中、Aはもう一度吐息を零して瞼を閉じた。
結局あの後外交時間の半分以上はお茶会に費やされてしまった。
真面目な話し合いもいくつか行ったし空気は多少穏やかにはなったが、水面下ではお互いに会話ペースの奪い合いを繰り広げていたあたりまだ友好的とは言えないだろう。

「A外交官…その…」
『次の約束取り付けられただけまだ全然アリ。長期戦になる気はしてたし仕方ない。じっくりやろう』
「は、はい…！」

さて、これがあと何度続くのだろうか。
ふとそんなことを考えてしまいA自身軽い眩暈がした。

6→←4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す