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馬車を降りて目の前にそびえ立つ石壁を見上げる。
絢爛豪華という訳ではないが、どこか品のある造り、上の方の階では窓が開いているのか白いレースのカーテンが揺れている。
かと思えば見張り台が複数箇所あり、監視カメラも点在している。
城と称すべきか、要塞と呼ぶべきか。
そんな感想を抱きながらも目の前の門番に要件を告げればすぐに迎えを寄越された。
若干緊張した面持ちの部下をこっそり肘で小突き、兵の後について城内へ足を踏み入れれば意外と中は外程の圧迫感を感じない。
機械的な訳でもなく清潔で過ごしやすそうな空間だ。
やがて案内された綺麗な装飾の木目扉の中へ入ると、本日の相手がにこにこと笑みを浮かべながらソファーから立ち上がった。
「お待ちしておりました、A外交官殿。書面でご挨拶させていただきましたが、私が本日外交を担当させていただくオスマンと申します」
サラサラと流れるアシンメトリーの茶髪。
皺のない軍服をスマートに着こなした彼は笑顔で握手を求めるように腕を出す。
ああ、彼があの、という逡巡は一瞬で済ませ、Aも笑顔でその握手に応じた。
『初めまして、オスマン外交官殿。Aと申します。本日はお忙しい中お時間をいただき、誠にありがとうございます』
「いえいえ、とんでもありません。A外交官殿とお会いできるのを楽しみにしておりました。お噂は予々聞いております」
笑顔を崩さずそう言うオスマンにAの経験上の感覚が囁く。
なるほど、これは食えないタイプだ。
噂という単語一つで彼女の外交上での評判と内部での不穏な扱いのどちらとも取れる言い方をしている。
このまま相手のペースに飲まれるとまずい。
『私など大した者ではありませんよ。それよりも私もオスマン外交官殿にはお目にかかりたいと思っておりました。お会いできて光栄です』
「ご謙遜なさらないで下さい。貴国の数々の外交手腕は素晴らしいものだと我が総統も申しておりました」
『勿体無いお褒めのお言葉、ありがとうございます。総統閣下にも是非よろしくお伝え下さい』
やりづらい!!
思わずそう叫びたくなる。
表面は友好的だが腹の探り合いが凄まじい。
もう少しマシな関係を築きたい、そう願い部下の持っていた紙袋から箱を取り出す。
『こちら、本日の手土産にお持ちいたしました。オスマン外交官殿は甘い物がお好きだと伺っておりましたので』
焼き菓子の詰め合わせを差し出せば、相手の笑顔が一瞬柔らかくなったような気がした。
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ゆう - メンバー同士の掛け合いもリアルでテンポよく、話の構成もしっかりしていてとても読み応えがあり面白いです!言葉の選び方や設定まで凄く丁寧で尊敬します。小説として面白く、それでいて『リアル』を崩す事なく描かれていて凄いと思いました。 (2019年8月4日 23時) (レス) id: 7c238edc15 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - もちえもんさん» コメントありがとうございます。沢山のお褒めの言葉、嬉しいです!書きやすい方と掴みきれていない方でどうしても差が出てしまうのですが、なるべくいろんな方と絡めるように頑張ります。 (2017年5月18日 2時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
もちえもん(プロフ) - 恋愛一色ではないのにこんなに好きになった小説は初めてです。メンバーと仲良くなっていく過程が早すぎず、自然で素晴らしいです!キャラが掴めていて、言葉遣いが上手で尊敬します。今後とも楽しみにしておりますm(_ _)m (2017年5月17日 23時) (レス) id: 801b233da8 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - 那月さん» コメントありがとうございます。読みやすいですか…!ありがとうございます!話の進みは遅いですがよかったら今後とも見ていただけると嬉しいです。更新も頑張ります! (2017年5月16日 13時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
那月 - 夢主ちゃん苦労人ですね;´`文面もきちんとしていてとても読みやすく、面白いです…!!昔ほど酷くないですが未だにやや男尊女卑の所があるのでそこも共感して読めます。これからどのように夢主ちゃんが戦っていくのかとても気になります。更新頑張ってください(*´-`) (2017年5月16日 3時) (レス) id: 329c4228b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:璃亜 | 作成日時:2017年4月30日 2時