【wrwrd!】とある社畜外交官の憂鬱

3 ページ3

ガタゴトと揺れる馬車の中、小さな窓から見える景色はあっという間に左から右へ流れていく。
時折美しい緑が広がるが、馬車の中に居る彼女はそんなものには目もくれずに手元の資料を覗き込んでいた。
既にそれは一度目を通したもので、あっという間に確認を終わらせると同乗していた部下の一人へ視線を向ける。

『今日は私がやるわ。本当は一緒に外交させてあげたいけど、それはまた次の機会に。気になることがあったら後で聞くから、今日は相手の様子だけ注視しといて』
「了解です！…しかし、そこまで警戒すべき相手でしょうか。近年力を付けてきてはいますが中小国ですし」
『だからこそだよ。近年だけでもうこれだけ勢力を広げてきている。何ヶ国とも戦争してるし、あまり敵には回したくないね』

疲れた顔で先程まで読んでいた資料の一部を差し出すA。
受け取った部下が目を走らせれば、そこには彼の国の情報がまとめてあった。

我々、と呼ばれるその国家は決して大きな国ではない。
にも関わらずその名前は知れ渡っており、その影にあるのは幹部の活躍によるものが大きい。
先日逆ギレに近い感想を持ったAだが、それは首脳陣に対してだけではないのだ。
機械類のスペシャリスト、戦場を鬼神の如く駆ける戦闘狂、確実に質と量を確保する物資貿易のプロなど、あらゆる方面に秀でた人間が居る。
そしてそれらを全て上手く使いこなして圧倒的な頭脳と統率力で導いていく総統と、そのカリスマ性に惹かれついていく国民達。
正直うちに欲しいわ、と零したAに部下も思わず首を縦に振った。

『出来れば友好的な関係を築きたいから、様子見しつつまずは信頼を得る。時間がかかっても良いからとりあえず会う回数を増やす。相手が全く聞く耳持たないなら話は別だけど』
「なるほど…勉強になります！」
「しかしそれほどの相手ならば他に護衛を連れて来なくて良かったのですか？初めて訪れる国ですし、もしA外交官の身に何かあったら…」

護衛として連れてきたもう一人の部下が口を開くが、彼女はそれを笑って一蹴した。

『ゾロゾロ連れていくとそれこそ警戒されるよ。いきなり殺しに来るとも思えないしね。そもそも個人的には信用できる人以外連れて行きたくない』

そう、彼女は外部より内部の敵の方が多いのだ。
下手に寝首を掻かれる方が困る。
そんな皮肉を込めて答えたのだが、それを聞いた部下二人は感極まった様子で頭を下げた。

4→←2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す