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手持ち花火もあと僅かってところで並んでしゃがみこんだ。
パチパチと燃える火花に照らされた横顔。
すごく綺麗に思えてチラチラ見てたら、Aちゃんが口を開いた。
「…今日は言わないの?」
「…何を?」
「いっつも好き好き言ってくるのに…今日は無し?」
「…じゃあ…Aちゃん、好きだよ」
「じゃあ、ってなんだよー」
ほら、どうせまともに取り合ってもくれないのに。
もう…居なくなっちゃうのに…。
「……ありがとうね」
「え…」
「…ずっと好きでいてくれて、嬉しかったよ」
「Aちゃん、」
「でもほら、私決めてたから。
いつか遠くに離れちゃうってわかってたからさ…」
それってどういうこと?
少しは俺のことちゃんと考えてくれてたってこと?
そう訊きたかったけど、それを遮るみたいに立ち上がったAちゃんは、とっくに消えてた花火をバケツに突っ込んだ。
「よし! 最後はこいつらだ! 北人も並べて〜」
下に置いて噴き上げるタイプのやつ。半円状に並べたら14本もあった。
真ん中から外側にいっぺんに火を付けよう。
最後だからパーッとやろう。
Aちゃんの言葉に、最後の夜がもう少しで終わっちゃうんだなって。
寂しいけど、イヤだけど。
グズグズして長引かせたってしょうがない。
辛気臭いのが嫌いなAちゃんのために華々しくやってやろう。
「ではでは行きますよー」
「オッケー」
よーいドンで次々に点火して、ほぼ同時に端っこまで。
ちょうど真ん中らへんで並んで立ったままその光景を無言で見つめた。
あっという間に全て消えて、明るさに慣れた目には暗闇と白い煙。
ふとすごく近くにAちゃんの気配。
「ありがと、またね」
ほんの一瞬、唇に触れた温度。
そしてAちゃんは消えるように居なくなった。
最後の最後に…本当にひどいヒトだよ。
どういうつもりだったかなんて知らないから。
だから俺の好きなように、都合のいいように考えるから。
「ってか俺ひとりで片付けんの…」
楽しかった時間の残骸を目の前に笑ってしまう。
最後まで自由で勝手だったAちゃん。
実は寂しがり屋のAちゃんだから…他の誰かといてもいいよ。
でも絶対に追いかけていくから。今日を最後の夜になんてしないから。
その時を覚悟して待っててね。
end
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ちょる(プロフ) - も。さん» はじめまして。たくさん褒めていただきこちらが嬉しくて叫び出しそうです…!ひとまずはもうひとつの作品の方を頑張りますね。感想頂きどうもありがとうございました! (2020年6月7日 21時) (レス) id: 7af395255e (このIDを非表示/違反報告)
も。(プロフ) - こんにちは!お話全て読ませて頂きました、どれも素敵なお話で胸がキュンキュンして叫び出しそうになりながら読みました……これからも更新頑張ってください!猫みたいな〜の作品の方も読ませて頂きます! (2020年6月7日 17時) (レス) id: db66c21382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちょる | 作成日時:2020年3月1日 21時