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A「………涼介………。」
驚くほど自然にその名前は喉を通った。
封印したはずの、名前。
其処には静かに、
私たちを見ていたあいつがいて、
さっきまでの尖った目より、もっと深いところから見るような暗い目で私たちを見ていた。
私はさっきのことを思い出して、ひとつ歩き出し、
真っ直ぐ此方へ向かってくるあいつにヒヤリと寒気を感じた。
見たこともない暗いあいつの瞳は伊野尾君を睨み、見据え、つかつかと距離を詰めてくる。
A「涼介、」
また突然に殴りかかってしまうんじゃないか、と
危険を感じ、止めようとすると、
あいつは伊野尾君からす、と
私に視線を変えて私は思わず動きを止めた。
そして私の腕を掴み、あいつは力任せに引き寄せるとそのまま私を引っ張って廊下の先へとどんどん歩き始めた。
A「ちょっ、と、なにっ………、」
涼介「………。」
A「離してよ、………ねぇ！」
痛いほど掴む手は優しさの欠片もなく、
勝手に突き進む足は
私の意志など気にも留めず引っ張っていく。
廊下の角を曲がり階段下まで来ると、
瞳に篭った憤り全てを私ごと壁に押し付けた。
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作者名：環
| 作成日時：2018年7月16日 19時
