【短編集】少しの幸せを貴方に【2j3j】 (ページ7)

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人の家に来て早々、問いたいのは私の方だと言うのに、つらつらとまるで彼氏であるかのような質問攻めに答える隙もなく黒い笑顔をまとった顔と吐き出された低すぎる声に背筋が伸びる

それが声を発するのを阻んだ

この時少しだけ怖いと思ってしまった私の感情は正しかったのだと、あとから改めて気づくことになるとは思いもしなかった

異常だとさすがの私も分かっているけどこの期に及んでプライドが邪魔をする

彼が良くない考えを持っていることも何となく勘づいていた。なのに、

「誰でも良くない？そんなの、伏見に関係ないじゃん」

「関係ない、ね」

「なに」

「いや、なんでも。そこまでして隠す理由は何かあるってことっすか？」

沈黙で返してしまった

肯定と捉えられただろうか

でも本当に何が言いたいのか分からない

本当に関係ないじゃないか

友だちではあるけど人生相談なんてしたことが無い

彼にとっての私は友達ではない別の存在だったのだろうか

思考を巡らせている間にも伏見は笑顔を崩さない

「てか電話経ってから数分しか経っていないのになんでこんなに早く·····」

「あー、俺が家から電話かけたと思ってる？」

最後まで言わせてくれない

きっと私が話を逸らそうとしているのを分かっている

用がないなら帰ってと言おうと思っていたのに

「違う、の？」

「そんな考えだから俺みたいなのに好かれても分からないんだよ」

ちゃんとその頭で今までのこと考えなよ

そう言って扉の鍵を後ろ手で閉めた

頭が悪いと遠回しに言われたことしか頭がなかったのに、ガチャッというその音で、やっと、自分が良くない状況に置かれていることに気がついた

悪い予感ほど当たるという

伏見が高校で急に話しかけてきた理由
距離を詰めてこようとしなかった理由
今日電話をかけてきた理由
ほんの数分でこの家に来られた理由

大まかなことから細かいことまで考え出したらキリがない

それに全部あいつが関わっているなんて考えたくもない

まさか、なんて思ってもそれは絶対に違うと言い聞かせる

「お前は、なにをしたいの」

答えを出してしまっては元の生活に戻れない

それを察したのは目の前の相手が異常なほどに、にこりと綺麗な笑顔を作った時だった