【短編集】少しの幸せを貴方に【2j3j】 (ページ24)

今日:22 hit、昨日:32 hit、合計:175,021 hit

枝垂桜 ‐ kne ページ24

周りを見渡すと至る所で綺麗なピンク色が咲き乱れている。そういやあそこの川沿いにも桜並木があったような気がする

目的地へと続く道から逸れるけど、折角の桜を見ないのは勿体ない

待ち合わせ時間にはまだ余裕があるからと簡素な住宅街に続く道へ足を向けた

普段の僕ならタクシーを呼ぶけど、なぜだか今日は歩きたい気分だった

花粉がまだ酷いというのになぜ徒歩を選んだのかとついさっきまで悔やんでいたけど、この桜を見ることができたんだからいっか

ウグイスの鳴き声が聞こえてきそうな程穏やかに晴れた心地の良い日

一際美しい枝垂れ桜のいい構図を探して写真を撮ってみるもののスマホでは限度がある

スマホにしてはいい感じの写真なんじゃないかと思えるものを撮り終えた頃には時間が差し迫っていた

目的地に着いた頃には彼女はもうそこにいて、名前を呼ばれるのを待っているようだった

電子ボードに数字が表示されてはそこにいる人が皆顔を上げる

例外ではない彼女も顔をあげてはまた俯き、何かを考えている様子だった

「A、迎えに来たよ」

「かなえく、ん」

彼女の顔に驚いてしまって何も言葉が出なかった

「どうしたの？」

僕らは同棲しているから毎日顔を合わせる

朝笑顔で玄関の戸を開け、行ってきますと言った彼女からは想像が出来ない程

なんとも言えない複雑な顔をしていた

「いや、なんにもないよ」

何かあったのは確実なのに、それを隠そうとする

ピコンとまた電子ボードから音が発せられた

受付番号があったのだろう、静かに立ち上がり会計窓口へと歩いていく

「ねー、検査結果どうだったの」

「……なんともないって！ただの偏頭痛らしい」

「そっかー、それなら安心だね」

「……そうだね」

どうにも歯切れが悪い

でも普段から嘘をつくような人ではなくて、隠し事もすごく下手で

『嘘ついたら私も相手も嫌な気分になるでしょ？絶対嘘は吐かないから安心して』

昔そう言っていたのを覚えてる。無理に詮索するのも良くないと思いその話はここで終わった。

タクシー呼ぼうかと声をかけるも、歩きたい気分と答えた時の君は遠くを見つめていた気がする

「ねーAー？」

「なーに？」

「これからもずっとずっと一緒にいようね」

「…もちろんだよ」

さっき撮った桜の写真を見せようとスマホを開く

通知欄には友達のツイートが表示されていた

”今年のエイプリルフールは嘘ついていいんだよな？”