【短編集】少しの幸せを貴方に【2j3j】 (ページ19)

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扉 - knmc ページ19

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毎朝聞こえる、竹刀を振る音

剣道なんて中学の頃は全く関わったことがなくて、テレビでも見ないようなものだったのに

剣道に興味が湧いてしまった

否、剣道部の男子に興味が湧いた

学校に入学した当時は肌寒かったからか、その音が聞こえることはなかった

夏になって剣道場の扉が開き、風に乗って剣道部員達が打ち込み台に竹刀を打ち付ける音が聞こえる

その音を聞いた時、いいなって思った

かっこいいとかじゃなくていいなって

毎朝同じ時間に立ち止まって耳を澄ます

傍から見ればただの不審者だけど、周りの目も気にならないくらい、とある男子生徒が気になる

名前も学年も知らないんだけど

この高校は男子校だから、どう頑張っても私がそこに入学することはできない

だから近くで音を聞くことしかできない

その男子の顔はたまに見えるくらいで、いつもは影に隠れて見ることができない位置で練習をしている

全然遅刻なんてしない余裕のある時間に家を出て、遅刻ギリギリで学校に着く

私が立ち止まっている時も同じ制服を来た子達が横を通り過ぎていくけど、スマホを触って待ち合わせしてる風を装っている

高校で新しく出来た友達にその人の話をすると"うちの学校の剣道部マネにでもなればいいんじゃない？"って言われた

でもそれだとうちの学校を応援しなくちゃいけないでしょ？なんて今考えるととても酷いことを言った気がする

もう秋に近づいてきて、もうすぐ冬だ

冬が来たらきっとまたあの扉は閉まる

そしたら来年、その人に会えるかどうかも分からない

だって、3年生かもしれないから

扉が空いているうちになにかアタックをしないと
気づいてもらわないと
せめて名前を知りたい

なんて思って初めて気づいた

私、あの人に恋してるって

自覚したからなのか、たまたまなのか、神様かなにかのおかげなのか、

いつも通り道路からフェンス越しに見ているとその男子と目が合った

風が吹いて枯葉が落ちる音がした
朝早い暖かな日差しが眩しかったのか、扉を閉めようとした時

綺麗な顔がこちらを向いたのだ

彼が竹刀を置いてこちらに歩いてくる

思わず走り出してしまった

認知されたいって思ってたはずなのに、存在を知られた途端怖くなった

ずっと見てたってバレたら嫌われると思う

だって、もし私があの人の立場だったら嫌だなって思うもん

知らない人にいつも見られてたって

怖すぎる