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「面倒とは、具体的にどういう意味なんだい? ……君の声色から察するに、あまりいい意味ではないようだが」
「え? えぇと……手間がかかる、が1番ニュアンスが近いかな?」
いきなりの質問に戸惑いつつもそう答えると、ハープさんは納得した様子を見せたが、その表情はどこか寂しげに揺らいでいた。
「手間、か……確かに僕は他の楽器たちと比べても、色々と手間がかかる。調律も、移動さえも……君たちにとっては
“面倒”なことなのだろうね」
「……もしかして、落ち込んでる?」
「まさか、落ち込んでなどいないさ。……ただ、ようやく腑に落ちた。
……歴代の
……ハープさんがうちに来たのは、確かおじいちゃんが亡くなる前だっただろうか。来た当時の彼はひどくホコリを被っていて、弦も何本も切れていた。
けど……それでも、彼は誇りを捨てることなく、優美な佇まいで座っていた。……そんな姿に、きっと私は心を惹かれたのだと思う。
「……確かに、ハープさんってめちゃめちゃ手間かかるんだよね。グランドハープだと移動だけでひと苦労だし、弦の張り替えも調弦もすごく大変。
けど……面倒なのって、別に悪いことじゃないと思うよ」
「……そう、なのか?」
「もちろん。それに、私が今こうして君に時間をかけてるのは……“手間”をかけるほどの価値が君にあるから。
……確かに、君は他の楽器よりも手間がかかる。けど……私は面倒だからって、君を捨てたりしない。そこだけは誤解しないでほしいな」
そもそも、楽器自体が“面倒”な存在なのかもしれない。
どんなにお金と時間を費やしても実にならない、なんてことはざらにある。……どんなに練習しても上手くならないかと思えば、ある日突然上手くなったり。
「……まったく、本当に風変わりな小娘だ。
仕方がない、少しの間は君で我慢してあげよう」
「が、我慢って……!」
「……扱いが不満かね? 生憎だが、僕はフルート以上に長命でね。……君と過ごした時間なんて、僕の人生の100分の1にも満たないのだよ。
ふふ……僕の記憶の片隅くらいには残れるよう、せいぜい精進することだね、小娘」
……推定5000歳の彼の記憶に残るのは、並大抵の努力では難しそうだ。……彼の相変わらずな言動に苦笑しつつ、私は弦の張り替え作業を再開したのだった。
オススメの楽器さん
バスクラリネット
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もも - べるーがさん» なんか泣ける… (4月19日 0時) (レス) @page44 id: 8826ef9895 (このIDを非表示/違反報告)
べるーが(プロフ) - ももさん» すみませんお待たせしました!! いつも以上に作者の趣味全開で書いてしまって本当に申し訳ないんですが、よければお納めください……🙇🏻♀️ (4月17日 1時) (レス) id: a87c674b3c (このIDを非表示/違反報告)
もも - べるーがさん» そうです!! (4月11日 0時) (レス) id: 2bfbe6c963 (このIDを非表示/違反報告)
べるーが(プロフ) - ももさん» リクエストありがとうございます〜!! 一応確認したいんですけど、弦楽器のコントラバスで合ってますか……?? (4月11日 0時) (レス) id: a87c674b3c (このIDを非表示/違反報告)
もも - べるーがさん» リクエストでコントラバでお願いします!!! (4月9日 15時) (レス) id: 2bfbe6c963 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べるーが | 作成日時:2023年3月1日 23時