フロイドの思い 〜1〜 ページ26
──もしかしたら、もう、限界なのかもしれない。
そう思っていた時。
私の前にある人物が突如として現れた。
それは人物と表現するのが正しいのか分からない。
しかし、その人物は私に向かってこう言った。
「完璧な毒が欲しければ、お前の身体の一部を代償に毒を授けよう。さもなくば、この女は間もなく元の世界に戻るだろう」
私は迷わずその人物の言葉を信じてこう答えた。
「頼む。私の身体を代償にして彼女がこの世界に留まれるのであれば、それに従おう。だから、完璧な毒を私に授けてほしい」
すると、その人物は私に近付き口づけをしてきた。
私の口を無理やりこじ開け、舌を入れる。
その人物と私の舌が触れ合った瞬間、全身に痺れが走った。
そしてその人物は言った。
「今、お前に完璧な毒を授けた。その毒を女に与えよ。一度の毒で、女は一生、この世界に留まる事が出来る」
そしてその人物は消えた。──
〜気持ちわりぃ…。シャチさん、そいつの事、男っつってたもんなぁ…〜
──私はすぐに彼女に完璧な毒を与えた。
すると、彼女の傷が今までに無いほどくっきりと浮き出てきた。
その日を堺に、彼女の傷が薄くなることもなくなり、彼女はこの世界に留まる事が出来た。
しかし、私の代償はまだ払っていない。
完璧な毒を授かり、彼女に毒を与えてから一週間ほど経ったころだろうか。
またあの人物が私の前に現れた。
「約束通り、お前の身体を代償としていただこう」
それだけ言うと、その人物が私の両足に触れた。
次の瞬間、経験した事のない激痛が両足を襲った。
私は絶叫し、その後、意識を失った。──
この部分を読むのは二度目だが、フロイドは今回も足がすくんだ。
〜シャチさんも、左腕を…。今日シャチさんから聞いた話しと同じ状況だもんね…〜
Aがこの世界に留まれるのなら、フロイドは身体を代償にする覚悟はある。
しかし、その時を考えると怖くない訳が無い。
──気が付くと、布団に寝かされていた。
彼女が横で心配そうな顔をしていた。
それにしても両足がまだ痛い。
私は彼女に聞いた。
「私の両足はどうなった」
「腿から下がどちらも無くなっています。酷い出血で意識が無く、今日はあの日から3日が経っています」
やはりあの人物は私の身体を代償に完璧な毒をくれたのだ。
後悔はしていない。
両足は不自由だが、彼女を失わずに済んだ。
彼女は両足を失った私を献身的に世話してくれた。
私も出来る限りの事を彼女にしてやった。──
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作者名：魅樹 | 作成日時：2023年4月23日 16時
