経験者 〜3〜 ページ20
「ええ。過去に数名いたわ。でも、自叙伝を最後まで読み、誰一人、異世界から来た相手をこの世界に留める勇気は無かった。他の方法は無いのかと、私の元を訪ねて来た人たちの相手の方は皆…元の世界に帰ってしまったわ」
「しょせん…、自分が一番大事なんだろ…?」
「そうかもしれないわね…」
「失礼ですが、ウェイさんは異世界の方なのですか?」
「いいえ。私の夫が異世界の人よ」
「夫?」
「っつーことは、シャチさんの旦那さんは、この世界に残れたってことだよね…?」
「シャチさんって…私の事かしら…?」
「フロイドはすぐにあだ名を付ける癖がありまして。お気に障るようでしたら謝ります…」
「うっふふ。何だか親しみがあって嬉しいわ。リーチ君の言う通り、私の夫は今でもこの世界にいるわよ」
「じゃぁ…、シャチさんは…」
「見る?」
スーザンが左手のグローブを外した。
「義手……」
フロイドもアズールも、スーザンが応接室に入って来た時から左手にグローブをしている事に気付いていた。
しかし、特にそれがとりわけ気になった訳でもなかった。
「私の左腕は、全部無いの」
「それが代償…」
「ええ」
呟くアズールにスーザンが答えた。
そしてまたグローブをする。
「私はまだラッキーな方だったわね。左腕だけで済んだのですから」
「シャチさん…、結構やるじゃん」
「リーチ君に褒めて貰えて良かったわ。私も、夫と出逢って、絶対に離れたくなかったの。私の左腕一本を代償にするだけで夫がこの世界に留まれるなら、喜んで差し出すわよ」
「それと引き換えに、完璧な毒を得た訳ですね?」
「ええ、そうよ。自叙伝の通り、一度完璧な毒を相手に与えることが出来れば、もう消える事は無いわ。私の夫のは実際に一度しか私の完璧な毒を与えられていないの」
「ご主人はウェイさんが自分の身体を代償に毒を得ることに反対はしなかったのですか?」
「自叙伝には、あえて記さなかった部分があるのだけれど…」
「あえて記さなかった部分…ですか?」
「ええ。……それは…、契約を結ぶ事よ」
「何の契約だよ…」
フロイドがいぶかしがる。
「完璧な毒を手に入れたら、必ず代償を払う。絶対に逃げられない」
「そう言うカラクリでしたか…。では、ご主人も、ウェイさんが契約を結んでいたなら反対してもムダだと言う事ですね」
「そうね。夫がその事を知ったのは、私が契約を交わした後だったからね…」
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作者名:魅樹 | 作成日時:2023年4月23日 16時