邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

興味 ページ48

「……はい。京夜先生っていうのは、私がそう呼んでいるだけで。筆名(ペンネーム)は、花鳥風月先生です。……たしか、芥川先生が亡くなられてから小説を書き始めたはずなので、先生が知らなくても無理はありませんけど」

京夜先生は、何故か太宰先生と通ずるところがあると思った。どちらも本名は津島。それに、芥川先生に強く憧れていたという点。京夜先生は、芥川先生の死に衝撃を受けて、小説を書き始めたと聞く。

「花鳥君か……作品はどんな？」

先生は、京夜先生に興味を持ったようだ。憧れている芥川先生に興味を持たれるとは、さぞかし京夜先生も嬉しいことだろう。良かったですね、と心の中で言っておいた。

「『四神の檻』とか、『神獣物語』とかですかね？ 所謂、空想小説(ファンタジー)です」

簡単に説明するとこうだ。芥川先生の時代に「空想小説(ファンタジー)」という言葉があったのかどうか……。悩むところだが、私の文学知識ではその言葉でしか表せなかった。京夜先生や芥川先生のように、優れた文才を持つ人になら、他の表現ができるのだろうか。

「へぇ……えっと、花鳥君だよね。見かけたら君が探していたと伝えておくね」

ほのかな微笑みを口元に浮かべ、芥川先生は喫煙室を目指して歩いて行った。

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