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ああ、どうしてこんなことに
資料室にて、あるのは整理されるのを待つ書類の束と私と、そして太宰さん
つまるところ、太宰さんと二人きり、な訳で
「緊張してるの?」
「べ、別にそんな訳じゃ、ないです!」
にこにこ顔の太宰さんに慌てて返事をするけど、上ずりまくりの声、回らない呂律
太宰さんに、余計に良い顔をさせただけだ
「でも、仕方ないよねえ」
" 国木田君に云われたのだから "
わざとらしく云って口角を緩める太宰さんに、耐えられなくて目を逸らす
太宰さんと二人、資料室で書類の整理をすること
国木田さんに課せられたのは、そんな、とんでもない仕事だった
何がとんでもないって、それは___
「は、早く終わらせちゃいましょうよ!」
頭を振って、何とか冷静さを呼び戻す
けれど、書類を掻き集めて早速仕事に取り掛かろうとした私の手から、さらりとそれは奪い取られて
「せっかくだし、ゆっくり二人の時間を楽しもうよ」
視界をめいっぱい埋め尽くす、太宰さんの妖艶な笑み
一瞬音が消えて、それから遅れて急激に暴れ出した心臓は手で胸を抑えても止まらない
思わず、その場から飛び退いた
と、次に見た太宰さんの顔は、不服そうな色
「……Aちゃんは、私が嫌いかい?」
表情と同様の声色で投げ掛けられた問い
言葉に詰まった
そんな聞き方、卑怯だ
「嫌いじゃ、ないです」
「じゃあ好き?」
何とか返答を絞り出せば、間を空けずに飛び込んでくる次の質問
嫌いじゃなければ好きだなんて、そんな単純で明快な世の中じゃない
けれど真っ当なその主張は呑み込んだ
だって、何故なら
「好き、でもありません……」
苦し紛れに返したこの言葉は、真っ平嘘で
あの川辺が " 良くも悪くも " 思い出の地なのは、太宰さんとの出逢いの場所だから
国木田さんに課された仕事がとんでもないのは、太宰さんと二人きりでだから
本当は太宰さんが____
気持ちと裏腹な言葉を返した私は、もう太宰さんの
「……どうして?」
低く響いたその声にも、私はただ、床に落とした視線を泳がせるだけ
「私のこと、嫌いでも好きでもないのだね?」
「……はい」
それは、今まで聞いたことのないくらい太宰さんの声が低くなっても、だった
「ならどうして、そんなに顔が赤いの」
ごめんなさい、本当は好きだからです
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桜月(プロフ) - 完結、おめでとうございます!!太宰さんの仕草や言動のひとつひとつにすごく胸がきゅっとなって、、めちゃめちゃキュンキュンしました!とても読んでいて楽しかったです!! (2021年10月11日 0時) (レス) @page28 id: cb743e60b6 (このIDを非表示/違反報告)
千桜里 - はじめまして!太宰さんの心情や行動にとてもドキドキしました!!本当に面白かったです! (2020年9月29日 12時) (レス) id: d647e09f50 (このIDを非表示/違反報告)
ヲタ娘(プロフ) - はじめまして。ヲタ娘です。すごく胸がキュゥ……として、フワフワっとしました! とっても面白いです! (2019年3月4日 20時) (レス) id: 737d873cb6 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 完結おめでとうございます!リクエストよろしければその後の話が読みたいです。お願いします。 (2018年3月7日 6時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
月ノ輪(プロフ) - 完結おめでとうございます!すっごく可愛くて胸きゅんばっかしでした!他の作品も楽しみにしています♪ (2018年2月22日 13時) (レス) id: 3aab0973d9 (このIDを非表示/違反報告)
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