22 ページ22
·
勝手に心配して、勝手に安心して、そうしてきっと気の抜けた顔をしてる私の背中へ
まるで大事なものに触れるように、包帯に巻かれた長い腕がそっと回された
その間、音が止まった気がして、しばらく二人の世界に身を置いた後
次に私の耳に届いたのは
" また笑ってる "
そんな一言を紡ぐ太宰さんの声
云われて初めて気が付いた
確かに、ホッと胸を撫で下ろしたし、心做しか表情が綻ぶ気もしたけれど
まさか自分が、笑ってるなんて思わなくて
でも、不思議な気分の傍ら、理由を考えるのに時間は要らなかった
「太宰さんが生きててくれて、ただそれだけで、私は嬉しいんだと思います」
云うと、私の口もとがおまけに小さな笑みを零す
それが理由の裏付けに感じて、改めてその嬉しさを噛み締めて目を細めた
と、少ししてから、太宰さんの言葉をふと思い出す
_____ " また " ってことはもしかして
「君に初めて会った時も、同じ笑顔を見たよ」
ああ、そうだったんだ
驚きと納得を同時に覚えながら、太宰さんの肩越しに川辺へ目をやった
懐かしさすら感じる、太宰さんとの出会いの場所
女一人で男の人を運び上げるのが大変だった
無事助け終えて安堵してたところを心中に誘われた
なんて記憶から私を引き戻したのは、太宰さんの髪から垂れて私の首筋に掛かった、冷たい冷たい雫
「だ、太宰さん! 風邪引いちゃいます!」
「Aちゃんが居れば温かいよ?」
「だめです! 見習い専属医として、社員に体調を崩させる訳にはいきません!」
まだまだ寒いヨコハマの街
入水紛いのことなんかしたりすれば、体を冷やしてしまうのは誰にだって判ることだ
「困ったなあ、君の体温と笑顔さえあれば、私が生きていくのには十分なのに」
太宰さんの体調を案じて頭がいっぱいいっぱいな私の陰で、当人である彼が漏らした、小さ過ぎる独り言には気付かず
必死に云い聞かせようと高い瞳を見上げる
「とにかく、今すぐ家に戻って服も包帯も替えて下さい! 川での汚れを落とす為にお風呂も!」
太宰さんと、目と目が合った
ただ私を見てるだけじゃなくもっと奥の、何かを見据えられてる気がして、だけど私はひたすら真っ直ぐ見つめ返す
「判った、云う通りにするよ」
すると太宰さんは、観念したように頷いた
ただし思いも寄らぬ条件付きで
「Aちゃんも付いて来てくれるならね」
·
758人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
桜月(プロフ) - 完結、おめでとうございます!!太宰さんの仕草や言動のひとつひとつにすごく胸がきゅっとなって、、めちゃめちゃキュンキュンしました!とても読んでいて楽しかったです!! (2021年10月11日 0時) (レス) @page28 id: cb743e60b6 (このIDを非表示/違反報告)
千桜里 - はじめまして!太宰さんの心情や行動にとてもドキドキしました!!本当に面白かったです! (2020年9月29日 12時) (レス) id: d647e09f50 (このIDを非表示/違反報告)
ヲタ娘(プロフ) - はじめまして。ヲタ娘です。すごく胸がキュゥ……として、フワフワっとしました! とっても面白いです! (2019年3月4日 20時) (レス) id: 737d873cb6 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 完結おめでとうございます!リクエストよろしければその後の話が読みたいです。お願いします。 (2018年3月7日 6時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
月ノ輪(プロフ) - 完結おめでとうございます!すっごく可愛くて胸きゅんばっかしでした!他の作品も楽しみにしています♪ (2018年2月22日 13時) (レス) id: 3aab0973d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ