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昨日はあれから約束通り、一日の終わりまで太宰さんのそばで過ごした
夜中、時計の針が二つとも上を向く少し前
太宰さん付き添いのもと帰路について、見えるのが早過ぎる自分の寮にもやもやしながら、彼と別れたのを覚えている
「私が恋人だったら」
翌日である今日も今日とて、出勤すべく探偵社への道を行きながら思う
もっと太宰さんと親しければ、あのまま泊まれていたのかな、なんて
もっと親しくなりたい、なんて
「……莫迦みたい」
包帯アレルギーのくせに
そんな自嘲的な言葉で、頭を過ぎる願望を笑い飛ばして振り払った
思い返してみれば、あの時あの瞬間、好きだって白状してしまえば良かったのだ
嘘を吐いて逃げた結果がこれだもの、すごくもどかしくて、辛くて、でも自業自得
そんなあれこれを抱えた頭で歩いていれば、例の川辺沿いの道へと差し掛かる
入水、入社、そして出会い
見渡したそこは、全ての始まりの場所
___もしも今、太宰さんと顔を合わせたら
またこの川辺であの人に会えたら、この胸の中の全部を素直にさらけ出せるだろうか
たくさん募った想いを伝えることが出来るだろうか
「あれ、Aちゃん?」
呼ばれたのは、ちょうどその時だった
聞き間違える筈のない声に、肩も心臓も大げさに跳ねさせて驚く私
振り返った川べりに見つけたのは
「___太宰、さん」
やっぱり、思った通りの人で
良過ぎるタイミングに息を飲みつつ、太宰さんの姿を見てすぐ、あることにも気が付いた
それは雫の滴る髪だったり、水を含んだ外套だったりしてつまり
「入水、してたんですか……?」
「違うよ、今日は川を流れてただけ」
率直に問う私に、太宰さんは、濡れた蓬髪を微笑に揺らして云った
「予言したからには、君の包帯アレルギーが治るのを確認するまで死ねないもの」
けれど私の耳にはほとんど何も入ってこない
ただひたすら目の前に立つ太宰さんを、ぼんやり眺めながら呼吸も忘れていた
「____良かった」
無意識のうちに零れた言葉
太宰さんが一瞬、目を見開いた気がした
思えば彼のそういう
「何か間違いが起こって、太宰さんが死んじゃったりしなくて、良かったです……」
呟きながら力が抜けて座り込む私
とびきり優しく包んでくれた太宰さんの体が濡れていてもしっかり温かくて、ああ、本当に良かった
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桜月(プロフ) - 完結、おめでとうございます!!太宰さんの仕草や言動のひとつひとつにすごく胸がきゅっとなって、、めちゃめちゃキュンキュンしました!とても読んでいて楽しかったです!! (2021年10月11日 0時) (レス) @page28 id: cb743e60b6 (このIDを非表示/違反報告)
千桜里 - はじめまして!太宰さんの心情や行動にとてもドキドキしました!!本当に面白かったです! (2020年9月29日 12時) (レス) id: d647e09f50 (このIDを非表示/違反報告)
ヲタ娘(プロフ) - はじめまして。ヲタ娘です。すごく胸がキュゥ……として、フワフワっとしました! とっても面白いです! (2019年3月4日 20時) (レス) id: 737d873cb6 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 完結おめでとうございます!リクエストよろしければその後の話が読みたいです。お願いします。 (2018年3月7日 6時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
月ノ輪(プロフ) - 完結おめでとうございます!すっごく可愛くて胸きゅんばっかしでした!他の作品も楽しみにしています♪ (2018年2月22日 13時) (レス) id: 3aab0973d9 (このIDを非表示/違反報告)
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