【文スト】包帯アレルギー

１８ ページ18

·


くぐったのは社員寮の扉

私のじゃなくて、太宰さんの部屋のものだ



「お、お邪魔します……」



私の部屋と同じ間取り、同じ作りなのに、酒瓶以外のものが少ない空間に、太宰さんの柔らかい匂いが香る

あたかも違う場所のように感じて、そんな太宰さんのお部屋に、ドキドキせずには居られなかった



「えっと、ここで、何を」



結んだ包帯づてに太宰さんに連れられて、申し訳程度に置かれた小さなソファに、二人並んで腰を下ろす

太宰さんに触れ合う右側がやけに熱い




「Aちゃんと一緒に居るには、特別な理由が必要なのかい？」




なのに、それを知ってか知らずか

相も変わらず脈絡のない言葉に、飽きもせず私が戸惑っている隙を突いて

更に距離を詰めて来るのは、太宰さんで

顔を向けずとも、視線を少し横にやれば、にこやかに私を伺う太宰さんがすぐそこに見えた



「……そんなこと、は、ないですけど」

「ふふ、良かった」



そう云って、太宰さんが笑うから

ときめきの滲む胸を隠すのに大変で、回らない頭で何か話題を模索して数分

絞り出したのは、どうしても気になったことについて



「……こんな風に、私なんかを家に上げてて、大丈夫なんですか？」



太宰さんは、女性に好かれやすい

私はそれをよく知っていて、現に私もその一人だからこその不安であり、疑問に思うところだった



「女を家に上げてるって、誰か知られたくない人とか居たり」

「大丈夫、気にしないで」



私の言葉を遮って、返事が寄越された

被せられた声に小さく吃驚しつつ、大きな安堵感に包まれて、バレないようにホッと胸を

撫で下ろそうとした刹那




「それより、君こそどうなの」




へ、と間抜けな声が空を漂った

と同時にぐるりと回る視点は、止まった時には天井の方向を向いており

肩を押した太宰さんの手、背中に走った鈍い衝撃

反転した景色に気が付けば、ソファに体が沈めさせられていて



「今日は包帯なんか使って、私が無理やり君を連れ込んだから許すけど」



お互いを結び付けてる包帯が、より一層、私と太宰さんから隙間を奪っていた

押し倒すと云うより覆い被さるような、とてつもない近さが、余計に私の体温を焚き付ける




「男の家に上がる時は、覚悟を忘れないようにね」




視界を彩る読めない瞳、途端に色を宿す薄笑み

私を諭すその声は、とびきり甘くて低かった




·

１９→←１７

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す