29錠目:『続・知らなくてはならないこと』 ページ28
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俺の隣に腰を下ろし、常夜灯に設定された橙色の光に瓶を翳す。
懐かしい、この距離感。
水神矢が部活を欠席した時、代理で俺がその日の練習内容をAから伝達して貰う日があった。
部室で敵チームの傾向を分析し資料としてファイリングした冊子を肩を寄せて見ていた、2人きりの、あの日を。
｢ここに入れた花はね、優しい花言葉ばかりなの｣
｢花言葉...?｣
｢うん...スターチスは“変わらぬ心”、千日紅は“色褪せぬ愛”、ユーカリは...“思い出”｣
｢...んな綺麗な要素で構成されてねえよ、俺｣
｢そう?...折緒はいつも頼もしいよ｣
運命は、残酷な程に俺の味方にはならなかった。
こんなにも好きなのに、苦しいって、なぁ。
｢...でもお前は、いつか水神矢の所に行くんだろ｣
余りの唐突な一言にAは瓶を揺らす手を止めた。
違う、こんなことを口走りたくはなかったのに。
思わず掴んでしまった手首は相変わらず細く柔らかく、付けていたブレスレットが揺れ、大きな瞳は涙で光っているように見えた。
｢......なんで、知ってるの｣
ただ俺の前で笑うAが好きだったのに、止めようと思った時にはもう遅かった。
｢違...えっと、その...｣
｢...分かってる。いつか折緒には話さなきゃいけないって思ってたから｣
そんな無理してまで、笑わないでくれよ。
｢成龍から聞いたんでしょ｣
｢せ...? あぁ、うん......｣
名前呼び。俺が死ぬほど求めていたが、叶うことなかった儚い願望。
頼めばきっと何の気なしに呼んでくれるのだろうが、気恥ずかしくて何年間も口に出せなかったことを今更後悔する。
｢折緒は優しすぎる....から、｣
｢ちょ、ッ...何して...!?｣
不意打ちを喰らった俺の両足にAが跨る。
いつの間にか両手は掴み返され、多少距離はあるがソファの上で所謂、押し倒される体勢になった。
｢っ...ま、じで...!!｣
｢...何度も言われたの、“これ以上に無い優良物件だ”って｣
｢...は?｣
俺の脳内暴走サイクルが緩やかに弛み始めた。
｢皆、ある年齢を超えると異性を機械的に評価し始めるの。...容姿や年収、学歴、職種とか、ね?｣
｢まぁ...確か、に｣
｢私はそれが嫌で嫌で...成龍のことを何にも知らない人達が、好き勝手に彼を評価するのが腹立たしかったの｣
されるがまま、俺は僅かに頷いた。
｢だから私は...無意識に折緒に甘え過ぎてたんだ｣
｢俺、に...?｣
Aは己を嘲笑する様に笑い、拘束する手を離した。
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30錠目:『移りにけりな いたづらに』→←28錠目:『睡魔と懐古と角瓶パープル』
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星猫 - もう一つのｐｃがしました。初めまして！とっても素敵です！高評価しました！ (2021年9月8日 11時) (
レス) id: 7d3fe1e696 (このIDを非表示/違反報告)
棘水(プロフ) - ゆりりんさん» わ〜!! 勢いある挨拶ありがとうございます〜^^ ちまちま更新していきますので気長にお待ち頂けると幸いです (2021年2月2日 1時) (レス) id: f96d68692e (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - まず最初に…好き!!（挨拶）続きが読みたくてたまらないです！ (2021年2月1日 20時) (レス) id: 9679665185 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 棘水さん» 了解です！また何かあったら声掛けますんで、これからも更新頑張って下さい！！ (2019年4月9日 15時) (レス) id: db0b681609 (このIDを非表示/違反報告)
棘水(プロフ) - アインツバルさん» コメントありがとうございます!! が、合作イベント....!!大変魅力的で参加したい気持ちは山々なのですが私生活の多忙や内容が合作内容が全く分からず他の皆様にご迷惑をかける可能性しかないので今回は辞退させて頂きたく思います....また機会がありましたら是非....!! (2019年4月8日 22時) (レス) id: c7cb6e701d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：棘水 | 作成日時：2018年7月20日 13時
