15錠目:『その研修医、多忙につき。』 ページ14
_
｢どしたの?二人とも｣
｢うおぁ、...っと｣
｢な、なんでもない!!...お皿、洗ってくれてありがとうね｣
台所から戻った佐曽塚に、俺らは何事も無かったように距離を取る。
必死に場の空気を変えようとするのを察するに、Aにとって俺は本当に只の友人以上・恋人未満の選手とマネージャー関係止まりなのだろう。
そんな誰にも押し付けることの出来ない現実への当て付けに、俺は力なく数秒前までAが居た空気を掴んだ。
｢A〜、俺、冷蔵庫にあったアレ...食べたい｣
｢あ、ティラミスね。水神矢が戻ってきたら食べよっか｣
そんな会話を繰り広げる二人を他所に、俺は出しっぱなしの日本酒を乱暴に1杯飲み干す。
同時に水神矢が最新型のスマートフォンを操作しながら戻ってきたが、彼の表情にもまた翳りを感じた。
｢悪い、A。急な呼び出しが掛かってな......今日はこれで失礼するよ｣
｢えぇ〜...デザートも用意したのに〜!!｣
｢まだ居たい気持ちは山々なんだが......埋め合わせはまた今度させてくれ｣
水神矢は手早く荷物を纏めリビングのドアノブに手を掛け、携帯があるにも関わらずPATEK PHILIPPEのNAUTILUSで時間を確認した。
様に成っているのが悔しく、格好良いと思ってしまった。
｢(何が“まだ研修医”だコノヤロウ......)｣
再び襲い掛かる抗えない現実に、残っていた酒を一気に煽った。今日は、いつもより酒の廻りが早い。
｢そうだ、佐曽塚｣
水神矢は思い出したように振り返り、Aと佐曽塚へこう言う。
｢何かあったらこの番号に電話を掛けてくれ。暫くはAが傍に居るから大丈夫だとは思うが｣
｢わ...かりました、｣
確かに佐曽塚の反応が薄い気がする。
｢さっきみたいな発作が起きたら...出来るだけ安心するように、ゆっくり呼吸させれば良いのよね?｣
｢あぁ、紙袋を口に宛がっても良い...が、血液の酸素濃度が低くなり過ぎたり、炭酸ガス濃度が過上昇したりする可能性がある。そこだけは念頭に置いといてくれ｣
了解、と手元にあったメモ帳に素早く要項を記したAは胸ポケットにそれをしまう。
俺も大学で救命救急の授業やったなあ、と呑気に過去を思い出しながらテーブルに伏せ、瞬きを繰り返す。前に立つ3人の姿が揺れ始めた。
あぁ、あと数秒で落ちるわ〜、とこれまた呑気に自己分析をしながら意識が遠のいてゆく＿
｢最後に、A___｣
｢っちょ、成.....水神矢、何して＿｣
___ハズだった。
__
16錠目:『泣きっ面にデスゾーン』→←14錠目:『君の心に俺は居ますか』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 57人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
星猫 - もう一つのｐｃがしました。初めまして！とっても素敵です！高評価しました！ (2021年9月8日 11時) (
レス) id: 7d3fe1e696 (このIDを非表示/違反報告)
棘水(プロフ) - ゆりりんさん» わ〜!! 勢いある挨拶ありがとうございます〜^^ ちまちま更新していきますので気長にお待ち頂けると幸いです (2021年2月2日 1時) (レス) id: f96d68692e (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - まず最初に…好き!!（挨拶）続きが読みたくてたまらないです！ (2021年2月1日 20時) (レス) id: 9679665185 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 棘水さん» 了解です！また何かあったら声掛けますんで、これからも更新頑張って下さい！！ (2019年4月9日 15時) (レス) id: db0b681609 (このIDを非表示/違反報告)
棘水(プロフ) - アインツバルさん» コメントありがとうございます!! が、合作イベント....!!大変魅力的で参加したい気持ちは山々なのですが私生活の多忙や内容が合作内容が全く分からず他の皆様にご迷惑をかける可能性しかないので今回は辞退させて頂きたく思います....また機会がありましたら是非....!! (2019年4月8日 22時) (レス) id: c7cb6e701d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：棘水 | 作成日時：2018年7月20日 13時
