12錠目:『記憶は厭にも補正が掛かる相場』 ページ11
＿
泣いてる俺を笑うわけでもなく、恩着せがましくもなく、Aは黙って俺を背中をさする。
その手によってアドエアを使うこと無く俺の発作は治まった。
｢よく頑張ったね、佐曽塚｣
誰かに認められたかった、褒められたかった。俺は、この言葉が、欲しかったのかもしれない。
他でもない、貴女から。
｢がんば、った...?｣
喃語から成長を試みる幼児のように、俺は言葉を繰り返す。発作や嗚咽も落ち着いてきた。
｢うん、頑張った。いっぱい泣いていいよ、止まるまで泣いて、ね｣
｢っ...おれ、もうこんなに苦しい思いしなくて、いいの...?｣
｢もっちろん、大丈夫。佐曽塚の涙をすぐに拭える人が、もう隣に居るんだから｣
｢...A、ッ...ぅう、｣
｢えっ、｣
疲れきって意識を失った佐曽塚はAの肩へ顔を預け眠りについた__
身動きが取りにくくなった今、何とか自由の利く右手で携帯を操作する。
『もしもし成龍? 予定変更。国道沿いのマンションに今すぐ来て』
＿
｢はあ...お前なぁ、俺は救急隊員じゃないんだぞ?｣
｢でも来てくれたでしょ?私だけじゃ佐曽塚運べないもん...それに今夜皆で会う予定だったじゃん｣
｢...お前ら二人はある程度情報を把握してたからいいけどなあ!!｣
折緒は買った酒を一気飲みしたい衝動を必死に抑え、マンション1階に設置されていた自動販売機で購入した炭酸飲料を流し飲む。
｢ンッ...俺はAの店に着く直前に!!ベンツのS450で!! 行く手を阻まれたんだぞ?!人生で五本指に入るレベルでビビったっての!!｣
｢はは、悪かった。Aからついでに折緒も拾ってこいという連絡が入ってな、仕方なかったんだ｣
折緒は小言を言いながら空っぽの冷蔵庫に買った食材と酒類を収納する。
｢それで、佐曽塚は大丈夫なの?｣
｢脈拍や呼吸に乱れは無い。Aが駆けつけていなければ事態は変わってたかもしれないが、な｣
｢...やっぱりまだ疲れてたんだな｣
｢喘息薬が机の上に置いてあった。中学生の頃に持病があるとは聞かなかったし、状況を察するにほぼ100%成人後のストレスによっての発症だな｣
｢流石、水神矢先生｣
｢はは、揶揄わないでくれA、まだ研修医だぞ｣
｢研修医が...ベンツS450…ｩ゛｣
｢あ、折緒の闘争心が｣
｢闘争心...?｣
困った笑いを浮かべながら水神矢はソファへ腰掛ける。
彼は目が合ったAに意味深な笑顔を向け、彼女は拗ねたように視線を逸らし、折緒は不思議そうにそれを見つめた。
_
13錠目『酒は呑んでも呑まれても、呑め』→←11錠目:『慌てず騒がず、適切対処』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 57人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
星猫 - もう一つのｐｃがしました。初めまして！とっても素敵です！高評価しました！ (2021年9月8日 11時) (
レス) id: 7d3fe1e696 (このIDを非表示/違反報告)
棘水(プロフ) - ゆりりんさん» わ〜!! 勢いある挨拶ありがとうございます〜^^ ちまちま更新していきますので気長にお待ち頂けると幸いです (2021年2月2日 1時) (レス) id: f96d68692e (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - まず最初に…好き!!（挨拶）続きが読みたくてたまらないです！ (2021年2月1日 20時) (レス) id: 9679665185 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 棘水さん» 了解です！また何かあったら声掛けますんで、これからも更新頑張って下さい！！ (2019年4月9日 15時) (レス) id: db0b681609 (このIDを非表示/違反報告)
棘水(プロフ) - アインツバルさん» コメントありがとうございます!! が、合作イベント....!!大変魅力的で参加したい気持ちは山々なのですが私生活の多忙や内容が合作内容が全く分からず他の皆様にご迷惑をかける可能性しかないので今回は辞退させて頂きたく思います....また機会がありましたら是非....!! (2019年4月8日 22時) (レス) id: c7cb6e701d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：棘水 | 作成日時：2018年7月20日 13時
