睫毛 ページ40
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先輩
______長期休暇もらえた、いつ会える?
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最初の頃よりも
ずいぶんフランクな話し方になった先輩は今日も東京で働いてる
すぐに会えないし、何してるかも知らないし
私は先輩の彼女じゃない
言葉ではこんな簡単に言えてしまうのに
未だに関わり方が分からない
どこまで我儘を言っていいのかも、どれだけ近づいていいのかも
全部全部、先輩次第なとこがある
なのに肝心なところは私に決めさせるのだ
本当はあの時だって拒めたキスも
悪いことだとわかっていても会う約束をするのも
慣れていってる自分がコワい
「ゴールデンウィークはバイト詰め込んじゃって」
『じゃあ帰んないの?』
「わかりません…。」
________小さな嘘をついてみたり
「えー、せっかく休みもらったのにー』
_________先輩の気持ち試すようなことしたり
「シフト代わってもらうことにします。」
気づいて欲しい感情と、伝えれば終わってしまう不安が交じり合って変になる
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「…先輩」
『なに?』
「なんですか」
『何が?』
「だって、……っ」
会って、すぐに先輩と触れた口の先から
甘い甘い記憶が戻ってくる
あの日のように
車の中、ふたりきり
『前も……したじゃん』
「そう、なんですけど…急すぎて…」
『じゃあ、こうする』
「?」
『キスしたい、長めのやつ』
急な展開に追いつけなかった私に対して
先輩は申告すれば問題解決と思っているのか、言いたいことを言うだけいってなすがままに…
『舌、出して』
何度も重ねては、離れたその一瞬で吐息まじりの先輩の声と、恐る恐る開いた小さな隙間から初めて触れる感触
上手くね?って
終わった頃に言われた一言
顔から火が出るほど恥ずかしくて
真っ赤なのを隠すように手で覆った
「でも…初めてです」
先輩が初めてです
きっとそれは自分にも言い聞かせるようにいった言葉
先輩に捧げたという事実に満足して
余計なことは見てみぬふりをしていたいが為の
それから車は国道を走りながらずっと目的地のない旅を彷徨っている
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『________隼ってさ…』
突然出てきたその名前に心臓が跳ねた
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作者名:彗星 | 作成日時:2020年5月22日 23時