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ふとした時に、無意識に触れてしまう、念入りに洗っても綺麗に消えず残ってしまった、右耳のあの印。
誰にも気づかれたくなくて常に意識しているせいで、余計に脳裏に焼き付いてしまう。誤魔化すように、髪の毛を手で梳かしてみた。
「…Aちゃん、何かあった?」
今日は図書委員の貸し出し当番の日。カウンターに北斗くんと2人で並んで、利用者のほとんどいない図書室で放課後を過ごす。
…私、そんなに思い詰めた顔しちゃってるのかな。
『なんにもないけど、…どうして?』
「いやなんか、難しい顔してたから…」
『…、そうかな』
「…俺なんかじゃ力不足かもしれないけど
話聞くぐらいなら出来るから、…相談して?」
北斗くんは、私に何も話す気がないことを分かっていて、何も聞かずにそう言ってくれる。
「…あ、そうだこれ、よかったら食べない?」
ポケットからさっと差し出された握り拳に、反射的に手のひらを出すと、ころんと落ちてきたのは、白い飴のような、個包装になっているお菓子。
「ミルク飴、美味しいよ」
『…くれるの?』
「Aちゃん甘いもの好きかな、って」
「え、」
『この間みんなで遊んだ時、シェークとか
色々甘いのばっかり食べてたなって思って…」
「確かに、…うん、好き」
『……なんか俺、気持ち悪い?
たまたま目に付いただけなんだけど、…ごめん』
「っふふ、どうして謝るの、嬉しいよ」
初めは掴みどころのない人だと思っていたけれど、友達としての時間を過ごせば分かる。慣れた人には懐っこい子犬のような接し方をするらしい。…なんて、北斗くん本人にはとても言えないけれど。
本当は飲食禁止だけど特別ね、と言い合いながら飴を口に入れる。甘くて優しい味に、ちょっとだけ気持ちが和らいだような気がした。
「……あれ、Aちゃん」
『うん、?』
「耳、ゴミか何かついてない?」
『え、…あ』
さっきまではあんなに意識してしまっていたのに、北斗くんとの緩やかな空間で気が緩んだのか、いつもの癖で髪を耳にかけてしまっていて。
…私の右耳に、北斗くんの指が、触れる。
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作者名:春野菜 | 作成日時:2020年7月23日 20時