25 ページ25
〜〜〜
「…大丈夫?」
『……だ、いじょうぶ』
「お手々がかわいーことになってるけど?」
耳に感覚全部を持っていかれていた私は、無意識ながら何かに縋り付きたかったらしくて。あろうことか樹くんの服をしっかりと握り締めてしまっていた。
『…あの、ごめんね、…やっぱり怖くて』
「やめる?悪い子チャレンジ」
『……大丈夫、やめない』
手を自分の服に移動して、樹くんの方を向き直って、さあ改めてというところで、視界が徐々にぼやけだした。今日はどうにも涙腺がおかしいらしい。我慢しようとしたのに、どうにもならずに零れてしまった涙を、咄嗟に下を向いて拭う。
「……Aちゃん」
すると樹くんがピアッサーを持つ手を降ろしてしまうから、慌てて顔を上げる。と、樹くんの唇が、スローモーションみたいに近づいてきて。…額に触れた。
何が起こったのか理解出来なくて、言葉も発せないまま、途方もなく長い時間を過ごした気分になった。
「…今日は帰ろっか」
『……え、?』
「暗くなってきたし、家まで送るよ」
ようやく沈黙を破ったのは樹くんだった。
ぱっといつもの笑顔に戻ると、何事もなかったかのように立ち上がる。置いてきぼりにされてしまった私は、やっぱり黙ったまま何も言えなくて。
「…ほら、悪い子チャレンジはおしまい」
そんな私にしびれを切らしたらしい樹くんは、お手をどうぞお姫様、とわざとらしく茶化してみせる。
「…大丈夫、こんな簡単に男の家に上がり込んで
ちゅーなんてされちゃって、…十分悪い子だよ」
涙はとうに引っ込んだから、視界は良好。でもそれでいくら顔を眺めていても、樹くんの真意は分からなくて。それ以上何を言うことも、差し出された手を取ることも、出来なかった。
行き場をなくしてしまったらしい樹くんの手は、そのままなんとなく、私の頭をそうっと撫でた。
〜〜〜
1133人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:春野菜 | 作成日時:2020年7月23日 20時