【名探偵コナン】転生作家の心得 Act.2

92.『葦の髄から覗いたものは。』 ページ47

『え？じゃあ、無差別殺人ってこと？』

コメンテーターは、憶測を口にする。とんでもない失言だ。ざわつくポアロに、愛梨は何を言ってるんだかと見据えた。

「私、無差別なんかじゃないと思います」

無責任なニュースコメンテイターの言葉に、愛梨は否定を告げる。

「どうしてそんな根拠が？」

安室の疑問が投げかけられたが、愛梨は画面から視線を外すことはない。その瞳には、確固たる強い意思が宿っていた。

「無差別殺人が目的ならば、狙撃よりも爆弾の方が早いからです」

愛梨の言葉は、一理ある。狙撃というのは、対象を定め、純然たる準備を経て、実行される一対一の殺人方法だ。戦争であれ、無差別というものはない。多くの人間を撃ち抜くにせよ、それは狙いを定められたものということになるからだ。

「犯人はもう狙いを定めている。それは、この殺人が行われてから決められていることだと思います」

愛梨は知っている。如何にも銃なんていう、危険なものと無縁そうな手だというのに、狙撃のなんたるかを、口にするのだ。

「それにしても詳しいんですね」

安室が少し感心したように告げると、愛梨は照れ臭そうに微笑んだ。

「叔父が優秀なスナイパーだったんです」




ベルツリータワーからほど近い、錦糸町の駅前。インターネットで飛び交うガセに、踊らされた人々が、真っ青な空だというのに、傘を差していた。すると突然、発砲音にも似た音が響き渡る。その音に、恐怖を焚き付けられている人々は、滑稽にも傘を放り出して、逃げ惑う。

道路に飛び出す人、店へと駆け込む人、様々で、忽ち周囲はパニックになってしまった。

駅前のコンビニで屯していた少年たちは、その様子に腹を抱えた。その手には、癇癪玉。恐怖心を焚き付けられている人々を嘲笑う声が、悲鳴とともに木霊する。


──その様子を、一人の男は冷ややかな視線で見つめていた。

「本当にくだらない」

逃げ惑う人々の中を、男は周囲とは違って、傘も差さずに歩いていく。その様子に、我先にと血眼になっている人々は気づかない。

まるで男の周囲だけ、音のない空気を漂わせていると感じ得た。

「やはり、あなただけですよ──」

男は逃げ惑う人々の中に、同じように冷ややかな視線を向けて歩いている人を見た。その人物を見て、彼は目を大きく見開くと、愉悦を孕ませて笑った。その視線の先には──水色のジャケットを着た──海月がいた。

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