【名探偵コナン】転生作家の心得 Act.2

87.『ビターチック・メランコリー』 ページ42

「あ、先生！今日は何にしますか？」

ぱぁと、花が咲く。私の来訪を心から喜び、慕い、好意を向けてくれる彼女。どうして、来たのだろう。ドアを開けたまま、ポアロの中へ入る気にもなれなかった。

それなのに、どうして来てしまったのだろう。

「先生？」

愛梨が訝しげにこちらを見ている。様子のおかしい私を、不思議に思う反面、心配しているのだろう。早く、席につかなければ。脳裏に、赤井の言葉が、書面が、ちらつく。唇を噛み、振り払う。

「いつもの、頼む。」

重い足を振り払って、いつもの席へとつく。客は疎らで、こちらを気にする人はいない。だから、助かった。珈琲を啜る気分ではないのに、珈琲を頼む。店からしたら酷く迷惑な客だった。

──本当にどうして、来たのだろう。

想いと行動がチグハグをしていて、きっとこの場にコナンがいれば不審がられていただろう。

「暑いですから、気をつけてくださいね。」

愛梨はアイスコーヒーを私の前に置きながら、微笑む。どうやら熱中症か何かだと勘違いしてるのかもしれない。もしかしたらそうかもしれないし、違うかもしれない。

「ああ……」

愛梨の代わりに梓さんが顔を出す。いつもと変わらない笑顔で、様子で、接してくれるベテラン店員に酷く救われた。

「それにしても安室さんがいないと、高校生客はきませんねぇ」

女子高生からアイドル感覚なんですよねと梓はボヤく。そういえばと、安室がいる時の喫茶ポアロを思い浮かべようとして、あの書面が浮かぶ。ああ、もう、クソ。

「……撒き餌か？安室は」

消すように呟いた時の顔は、ちゃんといつも通りであろうか。

アイスコーヒーに沈んだ氷が、カランと音を立てて体積を減らしていた。





もう朝か、と世良はカーテンの隙間から漏れる光を見て呟く。前日からノートパソコンに向かっていたこともあり、肩やらなにやらが凝っていた。

危機一髪とはいえ、コナンを庇い撃たれたとは思えぬほどピンピンしていた彼女は、違和感を覚えた男について調査していた。

警視庁にて、ハンターにより狙われる可能性があると見せられた三人の写真のうち、一名。

──森山仁。

新聞か何かで見た気がしたが、一向に見当たらない。勘違いだったのだろうかと、一人ゴチて、もう一度あの写真の男を思い浮かべた。

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