【名探偵コナン】転生作家の心得 Act.2

84.『転生作家とお化け屋敷　其の肆』 ページ39

麦茶を差し出せば、愛梨は弱々しくありがとうと言って受け取った。暫くペットボトルを握ってはいたが、徐にそれを半分ほど飲んだ。青褪めていた顔が、幾分かマシにはなってきていた。

「大丈夫ですか、愛梨さん」

安室が、心配気に彼女を見ている。私も、それは同じだし、それに、驚きだった。怪談系統に滅法強い彼女がここまで衰弱してしまうというのは、本当に驚きだった。

愛梨は安室の問に頷くと、最後の何だったんだろう、と呟いた。私と安室は、最後の？と首を傾げた。

最後とは、一体なんだろう。あの扉が閉まる瞬間のことを、私はあまり覚えていないが、あの空間を思い返す。思えば、あの場所は異様であった。


お願い、お願いと、私達に懇願する子供に恐怖を覚えながらも、ちらりと愛梨を見た。彼女は、耳を塞ぎ、目を瞑り、その表情は酷く苦痛に満ちていた。怖がり方が、尋常ではない、それはすぐに理解できた。それは、安室も感じていたようで、小さく、愛梨の名を呼んでいた。気づいていない、というか、聞こえていないのだ。不謹慎ではあるが、人が尋常じゃない怖がり方を見ると、落ち着くというのは、結構ガチ目だったらしい。私でも行けるのではとか思い始めた。

たすけて、と、愛梨の小さい声が耳に飛び込んできた。

――気づけば、彼女の腕を取っていた。

安室に話す余裕なんてものは、私にはない。幾ら、冷静に慣れたとしても、怖いものは怖い。お化け屋敷という時点で脅かすよ！って言ってるものだ。

けれど、本能が言っていた。彼女を守れと、そう言っていた。ぐっと掴んだ腕は、思ったよりも震えていた。そして、私も震えていた。本当にビビリだと、自分を嘲笑いたくなった。

そのまま、私は扉に手を掛けた。閉まったと思っていたその扉はいつの間にか空いていて、薄暗い廊下が視界に飛び込んできた。ワンテンポ遅れて、安室が出てきた。顔が、心配そうな顔を浮かべていたから、若干腹立たしかった。本当にあなたはお強いですね！と、嫌味を言ってもやりたかったが、ここではやめた。愛梨が扉の先に視線をやったまま、硬直きたのと同時に―――扉が閉まった。

静かになった。



「本当、海月先生はすごいです……」

愛梨が、視線を落としながら呟く。聞き返すと、彼女は下を向いたまま、冷静だったと言った。恐らく、彼女はあの時の私の行動を言っているのだろう。私は、愛梨の頭を乱暴に撫でた。

「偶々だよ」

そう。偶々だ。

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