「水槽より」 ページ24
私が悪魔だったら、こんな世界は作らなかった。
私の記憶にあるのは、キラキラした光が差し込むこの世界と、ヒラヒラさせた私と同じ赤い袖と、私や仲間達がはくはくと口を動かせば出ていく小さな泡銭。
何処から来たのか分からない。
気付いたら、皆おんなじ色で、でもちょっと違う模様で、同じ動きで、同じ所をぐるぐると動き回るここにいた。
なにがしたくて、なんの目的で、なにを求めて、皆何も知らないでずっと泳ぎ続けてる。
私も同じ。
たまに上から降ってくる丸い何かをぱくぱくと食べて、たまに上から落ちてくる色の付いた輪っかから逃げて。
あの輪っかが何なのか分からないけど、あれを見ると私も、皆も身体が勝手に違う方向へと進む。
そんな時間を繰り返して繰り返して繰り返して。
輪っかに捕まった事だけは覚えてる。
急に息ができない場所にとんで、必死に口を動かしても苦しくて。
でも直ぐにちゃぽん、と新しい場所に入った。
そこがなんなのか分からないけど。
周りは前よりも狭くて、上も下も、どこを見ても違う景色で、前より少ないけど仲間がいて、怖くないと言えば嘘だけど、前の場所より退屈ではなかった。
「てっちゃん？金魚皆鉢に入れられた？」
「うんー」
そう聞こえて見上げると、こちらを見下ろすユラユラと揺れる何か。
その何かは「てっちゃん」と言うらしい。
そのユラユラがさらに波立てたかと思ったら何だか長細いものがゆっくりと降りてきた。
珍しくて、思わず口でつついてみる。
前に上から落ちてくる丸い何かみたいに食べられなくて、残念。
「おわっ、コイツ突っついた！」
その長細い何かがピクンと反応すると、私の体にさらに近付いてきたので急いで下へと逃げる。
「お前、やんちゃだなぁ」
そう言ってその「てっちゃん」はニカッと笑った。
気付けば仲間がぽつりぽつりと死んで、気づけばひとりきり。
あんなに仲間だらけで狭かったここも、今ではただ寂しいだけ。
あの「てっちゃん」も随分と見ていない。
私もそろそろなのか、なんて思った時に上から降ってきた聞き覚えのある声。
「母ー金魚貰っていい？」
汚れたここから薄らと見える、あの笑顔。
「水槽より」
誰か誰か。
私を人間にして下さい。
目を開けたら私の体から伸びるてっちゃんと同じ手足。
そして、あの水槽よりもキラキラした世界。
私が悪魔だったら、こんなに美しい世界は作らなかった。
終わり
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えみ - 話が美し過ぎた… (2020年7月20日 3時) (
レス) id: 4b46f7439f (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - *ameto*さん» ありがとうございます！曲とともに見て頂けて嬉しいです。イメージ通りのお話になっていたでしょうか？是非また他のお話も見て下さると嬉しいです！ありがとうございました！ (2019年9月6日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» ありがとうございます！今回は今までの橙さんとは違った雰囲気のお話だったので、不安でしたがそう言って貰えて嬉しいです！でもやっぱりラブラブなお話が書きたくなるので、また次の橙さんに期待していて下さい！ (2019年9月6日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
*ameto*(プロフ) - 完結おめでとうございます。こうなるとわかっていても避けられない、2人の運命にうるっと来ました…。神曲を教えてくださって、こんなに素晴らしい作品を読ませていただいて、本当にありがとうございました！ (2019年9月3日 0時) (レス) id: 7b77494f9e (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます！執筆お疲れ様でした！毎度のことながら、素敵なお話をありがとうございます！ヨウさんの書く橙さんが大好きです！心がギュってなって、きゅんってなって。次回作も楽しみに待ってます！また橙さんをお願いします！！！ (2019年9月2日 18時) (レス) id: 318cc8d8b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヨウ
| 作成日時：2019年8月27日 11時
