→ ページ45
願っても時間が止まるはずもなく、あっという間に放課後になっていて。
友達は「じゃ、頑張れよ」と軽々しく私の肩に手をポンと乗せ帰って行った。
ああ、どうしよう。どうしよう。
平常心で居られるのか…
頭の中にはそんな気持ちがぐるぐる蠢いていて、悩んでいる間に準備室の前に着いてしまった。
一息だけゆっくりと吐いて、準備室の扉をノックする。
ワンテンポ遅れて開いた扉には、この準備室にはいないはず、の人。
「あれ、Aじゃん」
『小柳津、先生…』
多分この学校で1番の問題児(問題教師)であろう、小柳津先生が立っていた。
あれ?と首を傾げると、小柳津先生の後ろから聞こえる声。
「僕が呼んだの。課題出てないから」
ふん、と小さく鼻を鳴らした金澤先生。
「うーわっ!ざわくんの課題出さないとか、A勇気あるぅー!」
小柳津先生はこのこのー!と私の頭をぐちゃぐちゃに掻き回すと、それじゃあごゆっくりー♡なんて意味深な言葉を残して出ていった。
準備室に漂う不穏な空気と、金澤先生の深い溜息が混ざりあって溶けた。
「それじゃあ、僕ここで仕事してるから、Aは課題終わらせて」
分かんないとこあったら声掛けて、と言うと私に背を向けデスクに向かう先生。
私はその小さめの背中を見つめながら課題を進めることになった。
『先生、ここわかんないんですけど…』
そう声を上げると金澤先生はすぐにこちらを見てキャスター付きの椅子を転がして私の隣に座る。
小さくて白い手が、課題の文章を人差し指で追い、ゆっくりと心地良い声で説明してくれる。
それが、すごく嬉しくて、幸せで、ずっと続けばいいのにな、なんて。
「A、聞いてる?」
ぐいっと覗き込まれたらその顔に思わずびっくりして背を反らす。
『え、あ…』
「もー!ちゃんと聞いててよ!」
そう言ってまた真剣にテキストを読むその目をじっと横目で見つめた。
『おわっ…たぁ…』
気付けばかなり時間が経っていたが、途中何度も先生が説明をしてくれたおかげで何とか終わらせることが出来た。
『先生、終わりました』
デスクで小さく背を丸める先生に声を掛けるも反応がなく、そっと覗き込むと、小さく息を吐いて金澤先生は眠っていた。そう言えば、もうすぐ中間試験。先生も忙しいのだろう。
課題をそっと先生のデスクに置き、音を立てないように帰る準備をする。
準備室の扉を開ける前に、一言だけ。
『先生、好きです…』
小さく弾けて、消えた。
273人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヨウ(プロフ) - ななみさん» そう言っていただけて良かったですー!また続編の方にも遊びに来ていただけると嬉しいです! (2019年6月25日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - キュンキュンしちゃいました〜!すっごく読みやすい文章で大好きです!ありがとうございます! (2019年6月20日 22時) (レス) id: d77610da69 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - なぁさん» いつもありがとうございます!中村先輩、まだキャラがブレブレで申し訳ないです…続編頑張りますね! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - ななみさん» ありがとうございます!寛太先生続編書かせていただきました!期待に添えたものではなかったら申し訳ありません…また遊びに来ていただけると嬉しいです! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» リクエストにお答え出来るようなお話書けるか分かりませんが…はたらくおにいさん。の橙くんはツンツンキャラが多かったので頑張ってみますね! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ヨウ | 作成日時:2019年4月21日 1時