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「それじゃあ僕、そろそろ失礼しますね」
そう言うと杭全さんはゆっくりと腰を上げた。
『あ、どうも有難う御座いました。明日も…お願い出来ますか?』
そう尋ねると、杭全さんはにっこり笑って勿論ですよ!と答えてくれた。
「ゆめ、かえる?」
すっかり懐いた様子の息子は、杭全さんのズボンの裾をクイクイ引っ張って寂しそうに眉を潜めた。
「うん、また明日来るね」
杭全さんは優しく息子の頭を撫でると、ふんわりと優しく笑った。
……なんだろう。その二人を見て、ほっと胸が優しく暖かくなるような感覚が起こったのは。
杭全さんが帰ったあとも、息子は杭全さんの話をしていた。
相当彼との時間が楽しかったらしい。
「ゆめ、くるまたくさんしってるの」
『そうなんだー。そう言えばなんでゆめ?』
「ゆめいってたよ。ゆめのなまえは、ゆめまゆだって!」
『ゆめまゆ?』
なんだか聞きなれない名前に首を傾げる。
苗字も珍しいなと思ってはいたけど、まさか名前まで…?
息子を寝かし付け、部屋を見渡すと、本当に何から何まで丁寧にしてある。
部屋の掃除も、片付けも。
そして息子の事も。
素敵なハウスキーパーさんに出会えたことを嬉しく思いながらも、胸の中では少しだけ、この状況で出会ったことに何故か残念な気持ちになっていた。
翌朝。
朝から「ゆめはまだ?」を連呼する息子を宥めながら朝食を準備する。
早く会いたい、と思っているのは息子だけではないことは、まだこの時の私も知らなかった。
鳴り響いたインターホンに、息子が先に反応する。
息子と一緒に玄関に向かうと、そこには昨日と変わらないあの笑顔。
「おはようございます。今日も宜しくお願いします」
『おはようございます』
「ゆめー!」
一目散に杭全さんに抱き着きに行く息子は相当杭全さんにお熱なようだ。
『あ、昨日息子から聞きました。お名前、ゆめまゆさん、なんですか?』
そう尋ねると、彼は照れくさそうに頬を掻きながら笑った。
「あ、ゆめまるって言うんですよ。変な名前ですよね」
『素敵なお名前だと思います!』
思わず食い気味に答えてしまって、つい恥ずかしくなる。
チラリと目の前の杭全さんを見ると嬉しそうに頬を染めて「ありがとうございます」と答えた。
『それじゃあ、お願いします!』
そう言ってパンプスを履く。
振り返るとそこには杭全さんが笑顔で。
「はい、いってらっしゃい」
今日も、その笑顔と「おかえりなさい」を聞くために頑張ろう。
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ヨウ(プロフ) - ななみさん» そう言っていただけて良かったですー!また続編の方にも遊びに来ていただけると嬉しいです! (2019年6月25日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - キュンキュンしちゃいました〜!すっごく読みやすい文章で大好きです!ありがとうございます! (2019年6月20日 22時) (レス) id: d77610da69 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - なぁさん» いつもありがとうございます!中村先輩、まだキャラがブレブレで申し訳ないです…続編頑張りますね! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - ななみさん» ありがとうございます!寛太先生続編書かせていただきました!期待に添えたものではなかったら申し訳ありません…また遊びに来ていただけると嬉しいです! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» リクエストにお答え出来るようなお話書けるか分かりませんが…はたらくおにいさん。の橙くんはツンツンキャラが多かったので頑張ってみますね! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨウ | 作成日時:2019年4月21日 1時