第六十一話 不安と安堵 ページ13
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「…A、」
熱の籠った目で私を見つめる治くんの瞳は、どこか寂しげに揺れている。
そんな彼にどうしようもない愛しさが溢れ出てきて、私は反射的に彼の頭を撫でていた。
「……仕方ないなあ。ふふっ、ずっと一緒に居るよ。だからそんな不安そうな顔しないで?」
優しく頭を撫でながら言えば、治くんは気持ち良さげに目を細めて安心したような顔をする。
そんな姿に自然と笑みが溢れて、その可愛さに悶えたくなる衝動を必死に抑えた。
正直本音を言うなら思いっきり抱き締めたいしもっともっと甘やかして上げたい。
けれど今は高熱状態。普段通りには出来ない。そんなもどかしさに私は溜め息を吐きそうになった。
するとふと、握っていた手に力を込められる。
驚いたように治くんを見れば、熱に犯 されたように頬を紅潮させ確かな熱を持った余裕のないその瞳で私を見つめていた。
「…A、好きだよ」
熱を出しているにも関わらずそんな事を言ってきた彼に、今胸を貫かれたような気持ちになった。
いや、もう可愛いの域を余裕で通り越している。本当好き。可愛い。尊い。
語彙力が皆無になりながらそんな事を心中でずっと思っている私は、そんな治くんに対していつになく優しい目を向けて柔らかく微笑んだ。
「私も好きだよ」
慈愛の満ちた声でそう言えば、治くんは酷く安心したような嬉しそうな顔をしてゆっくりと目を伏せる。
そんな彼に私は小さく「おやすみ」と呟いた。
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葉桜 桜 - 凄く面白いです!1日にリメイク前の物まで読んで、お話が小説の神様みたいです!更新、楽しみに待ってます!! (2023年5月2日 14時) (レス) @page19 id: e6215ef735 (このIDを非表示/違反報告)
わけめ - ついつい一気に読んでしまいました!更新、楽しみに待ってます! (2022年11月19日 23時) (レス) @page19 id: 979aaf8679 (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 凄く面白いです! 無理しない程度に頑張ってください! 更新待ってます! (2022年7月14日 15時) (レス) @page19 id: 50f3e04b49 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2021年5月2日 15時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
はーちゃん - いや、神か?????面白かったです! (2020年11月19日 16時) (レス) id: 3ad67a8a12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水瀬月鏡 x他1人 | 作成日時:2019年7月21日 17時