赤色に染まる白の君 (ページ26)

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🍎嫌がらせだ、それだけだページ26

アップルside

皆が寝静まった夜。一人部屋の前に立って静かにドアを開ける。
リクルートをする期間中、私達はホテル・ハイタワーに滞在することになっている。それは人間の世界に体を馴染ませるためでもあり、別世界の者達をこの世界に繋ぎ止める役割もあるからだとか。
…とまぁ話が逸れたが、その談話室で聞いた悪戯にも似た検証を、私はエイトフットとマルフィに任されてこの場に来ていた。
入った部屋はあの忌々しいジャック・ハートの部屋だ。普段の私であれば絶対に入らないが、今回ばかりはそうはいかない。

「…居るな」

そう、目当てはベッドの上で眠るコイツだ。
エース・ハート。ジャック・ハートのお気に入りであり、ハートの女王の手下であるトランプ兵。私はコイツに毒を盛るためにこの場に来たのだ。

「(と言っても推測通りなら相手は紙だ。紙は毒を受け付けない)」

生き物であれば毒が容易く回るが、コイツは元々トランプ、つまり紙だ。紙に毒を与えたところで簡単に毒は回らないだろう。だが殺したいわけじゃない。

「(要は染み込ませることが出来れば良い)」

周囲に気配はない。ダルメシアに気づかれてはいけないからとニオイ消しの毒も撒いた。ジャックは今エースの部屋で就寝中だとマルフィが鏡越しに確認している。今なら大丈夫だろう。
懐から出した毒の小瓶の蓋を開ける。そのまま枕元に立つと、中の液体をエースの口に注いだ。

『ん、ぐ……っ、ぅ゛……』

寝ているからだろう、苦しげに顔を顰めて軽く咳き込むソイツの様子を見ながら全ての液体を飲み込ませると、漏れないようにそっと口に手を当てて塞ぐ。
確かに紙に毒は効かないだろう。特殊な毒でなければ腐食すらしない。が、紙には共通点がある。

紙は、水を吸う。

私は生まれながらの毒林檎。魔法で姿を与えられたからか、私自身も多少の魔法が扱える。その中でも最も得意な魔法があるのだ。
私は自在に毒を操れる。毒の量、強弱、効果の増減、毒であれば何でも調整可能だ。毒を含んでいれば水であろうと無機物であろうと中の毒を使役することで操れる。
そう、"毒が含まれていれば"私は操れる。マルフィの眠り魔法では昏睡だけで連れ出すことは出来ない。かと言って素直に誘うとあのハートが邪魔をする。

「すまないな、エース」

少し付き合わせてもらうぞ。