👿思いもしなかった ページ14
マルフィside
昔は、自分が嫌いだった。それは今でも変わらない。不吉とされる鴉に生まれ、忌まわしい角を生やした異端として妖精たちに嗤われた自分の姿が、とても嫌いだった。
私の姿は巨大で全ての生き物を怖がらせてしまう。だから普通の大きさの同胞を真似て、小さく怯えられない姿に自分を押し込めていた。
「"私とお揃いじゃないか"」
そう褒めてくださったあの方の言葉にどれだけ救われただろう。忌み嫌わず、その細指で私を抱えて愛でてくださるマレフィセント様こそが、私の全てだった。
同時に、私は恐ろしくなった。リクルーターの皆と触れ合い、親しくなる度に思う。
"本当の姿を見せたら、皆私を恐れて離れるんじゃないか"、と。
大きく巨大な体、不吉な角、鋭い嘴と爪、火を吐き爪で傷つける私を、皆はどう思うのだろう。そう考えるだけで息ができなくなった。
「(でも君は、私を見て怖がらなかったんだな……)」
か細い呼吸を繰り返すエースの手を握る。魔力の殆どを放ってしまった私の姿は、一番美しくないだろう。足は鴉の鋭い足になり、腕は人の形ではあるものの爪が黒く鋭くなり黒い羽毛で覆われ、顔も首から頬にかけて黒い羽根がまばらに生えている。髪に混じる羽根を見るだけで、嗚呼…まだ起きないでくれと静かに願った。
こんな姿、彼には見せられない。早く魔力を回復しないと……。ジャックの前では毛布を被って何とかやり過ごせたが、正直彼の視線も怖かった。
「……」
今の私が触れたら、鋭い爪で彼の手を裂いてしまうかもしれない。手袋を外された白い手から手を離そうとすると、ゆっくりと指が動いて私の手を優しく握った。
エースは起きていない。起きるはずがない。彼は私の嘴で魂に匹敵する核のトランプを傷つけてしまったのだから。それに加えて大幅の魔力喪失で彼はほぼ虫の息だったんだ、今かかっている呪いが解けても暫くは眠り姫だろう。
「……エース」
ぼんやりとした意識の中で聞こえた声も、寸前に見た優しい笑顔も、はっきりと覚えている。その一つ一つが今の私には暖かく、胸に沁みるものだった。
「見つけてくれて、ありがとう…」
傍に寄り添い、手を握る。爪で傷つけてしまわないように、深い眠りに就いた彼の側に座り込んでその寝顔を眺めた。
私の気に入りの薔薇。不思議の国のトランプ兵。……私の、親友。
今は、ゆっくりと休んでくれ。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2022年10月31日 1時