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午後六時半から七時半 ページ32

敦は薄ら暗くなった空を見上げ、カーテンを閉めた。代わりに部屋の照明を付けると、三人分の食事を卓袱台に並べていた鏡花が敦を呼んだ。


「Aちゃん。食事前の挨拶はきちんと言おうね」


無言で箸をとった子供は、敦に窘めるように言われて動きを止めた。敦が居た孤児院では黙って食事に手を付けようものなら鞭で五発は叩かれる。口煩いかな、とは思うけれど、敦にとっては骨身に染み付いた習慣だ。


「忘れてた。いただきます」

「戴きます」

「どうぞ」


子供と敦が頭を下げたので、鏡花は手を付いてお辞儀を返した。かつて幼い頃、食事をする自分と父を見ていた母の気持ちが何となく理解できた気がした。


「? 何か嬉しそうだね、鏡花ちゃん」

「……嬉しい事があったから」



□□□



「洗剤がない。買ってきて夜叉白雪。…………駄目?」


宿主から一定の距離以上を離れる事は難しいのか、鏡花の脇で漂っていた夜叉は首を振った。


買い物袋を持って玄関に向かう鏡花に気付いた敦が立ち上がり、その背に寄り掛かっていた子供は床に転がった。


「僕が行くよ。他に必要な物はある?」

「豆腐を一丁」


「豆腐ね」敦は苦笑しながら買い物袋を受け取り、三和土に置いた靴に足を引っ掛けた。その後姿を眺めていた鏡花がふと敦の服の裾を掴む。


「わっ、どうしたの」

「矢っ張り私も行く」


「Aも」鏡花は服の裾を掴んだまま子供を見遣った。子供は鏡花の視線を受け、ごろりと仰向けになってから身を起こした。


「チョコ菓子買ってくれ」

「ご飯前と歯を磨いた後に食べないと約束するなら買う」

「約束する」


まるで母娘だ。鏡花と子供の会話を聞いた敦は、流石に彼女の見た目では無理があると思い至って笑った。



街灯が照らす住宅街を歩いていると、反対側から小さな人影が駆けて来るのが見えた。


「あれ、親は……」


首を傾げる敦を余所に、鏡花の前で立ち止まった人影──人懐っこそうな幼い男児は満面の笑みを浮かべて鏡花に手を振った。


「小さい人間が居る」

「君も小さいけどね」


間もなく、一人の女性が男児の名を呼びながら駆け寄ってきた。


「息子がすみません。勝手に走って行ってしまって……」

「いいえ。迷子じゃなくてよかった」


頭を下げた女性は、屈んだ鏡花に頭を撫でられて歓声を上げる男児を見て柔らかく微笑んだ。

立ち止まった子供を不審に思った鏡花が声を掛けるまで、子供は遠くなる親子の後姿を眺めていた。

午後八時から九時→←午後二時半



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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時

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