午後二時半 ページ31
蝉時雨を浴びながら、子供は隣を歩く乱歩を見た。
「結局外に出ているじゃないか」
「動機が全然ちがーう。爆弾解除とかき氷は別だもん」
下町のある駄菓子屋の前で立ち止まった乱歩は、少し薄暗い店内に頭を突っ込むようにして、「おばちゃん、かき氷二つ!」と叫んだ。ややあって、老いてはいるが張りのある女性の声で返事があり、子供は驚いて目を張った。
「びっくりした……人がいるのか」
「そりゃ居るよ。店だし。あ、僕メロンにするから君はイチゴ味ね」
「なんで乱歩さんが決めるんだ」
「僕が食べたいから」
まあ、自由に決めていいと言われたところで何が良いのか判らないので構わないが、それにしたって気侭すぎるのではないかと子供は思った。
「はい、お嬢ちゃんの分だよ」
萎れた皮膚に被われた枝のような指が、細かく砕かれた氷が山盛りに入った紙製の器を支えている。子供は器に印刷された青い人鳥を眺め、それを差し出す腰の曲がった老婆に頭を下げた。
赤いシロップが掛かった子供のかき氷を三口ほど食べ、乱歩は「やっぱりメロンの方が美味しいな」とごちた。ならなぜ食べたんだと思いながら子供はストローで出来た匙で氷を小さく掬い、口に運んだ。
「……!」
「うんうん冷たくて驚いたね」乱歩は子供の方を一瞥もせずにその状態を言い当てた。衝撃を受けつつ、甘く味付けされた氷を黙々と食べ進めていた子供は、ふと自分を見つめる穏やかな視線に気が付いた。
「何用か」
「小さいのに大人びた喋り方するのねぇ」
駄菓子屋の店主である老婆は、元より皺だらけの顔に新たな皺を刻みつつ笑った。
「その帽子、乱歩ちゃんのものでしょう。ぶかぶかだからお顔が隠れちゃってるわ」
子供は上目遣いになって現在進行形で被っている乱歩のハンチング帽の鍔を見た。横から乱歩の暢気な声が飛んでくる。
「その子ねー、あんまり外で顔出せないんだよ」
「あらぁ、どうして?」
「秘密ー!」
「そう。もったいないね、こんなに綺麗な顔してるのに」
腰の曲がった老婆は子供とほぼ同じ背丈だ。震える老婆の手が、子供の頬をそっと撫でた。伸びてきた手に思わず後退ろうとした子供は、何となくそれを躱すのも気が引けた。
老婆の少し濁った瞳が子供の顔をじっくりと覗き込み、「綺麗な顔よ、あなた」としみじみ言った。恥ずかしいような嬉しいような、複雑な気持ちで子供は老婆から目を逸らした。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時