捌 雪 ページ9
「……」
「…………」
気まずい空気が流れ(といっても、煉獄さんの表情は全く変わっていない)、どちらも一言も発せず、沈黙が続く。
「あの……これっ」
長い沈黙を破ったのは、わたしだった。
今から告白をするわけでもないのに、変に緊張してしまって、鍔を差し出す手が震える。
自信はある。わたしらしい作品だと思う。けど、煉獄さんは認めてくれるだろうかと、不安になる。
「これは……」
わたしから鍔を受け取り、壊れ物のようにゆっくりと丁寧に、しげしげと見つめる煉獄さんの仕草1つ1つを目で追ってしまう。
次の言葉を、わたしは待った。
1分は経ったかな?いや、本当は10秒にも満たない、短い時間だったかもしれない。時が止まったように、1秒が長く感じられた。
「美しいな!君らしい、真っ直ぐな鍔だ!」
この装飾は苦労したんじゃないか?と、普通ならば分からないであろうところまで指摘し、頑張ったな、苦労しただろ、凄いぞ、と言葉を続けた。
認められたと、思わず笑みがこぼれた。
何度も誘惑に負けそうになった。このまま逃げ出してしまおうかと。だけど、煉獄さんの笑顔が見れた今なら思う。頑張って良かった、努力は無駄じゃなかったんだと。
「誰が何と言うと、君はもう、立派な鍔職人だ!」
「ありがとうございます……!」
君は泣き虫だなぁと、煉獄さんは困ったように笑うけれど、わたしが泣き止むまで、ただ見守っていてくれた。
わたしはこんなに、涙もろかったんだなぁと、初めて知った。
その日から、わたしたちは直接会うことが増えた。煉獄さんは任務で忙しいため、週に1度会えれば多い方だが、それでも幸せだと思えた。
会えない日は、手紙を送り合う。多いときは、1日に5通もの手紙が届き、思わず頬を緩めたものだ。
煉獄さんは、各地を転々としていて、任務のついでとして、よく土産話を聞かせてくれた。
気が付けば、もう雪が降り出す季節となっていた。
季節の変わり目は、どうしても体調を崩しやすい。気温の変化に、身体がついていけないのだ。
約束を果たしたからといって、鍔作りをやめたわけではない。今もずっと続けている。
わたしの鍔を気に入ってくれる人も増え、名の売れた鍔職人になっていた。それがとても誇らしい。
「頑張らないと」
煉獄さんも、休む間も無く鬼狩りをしている。ならばわたしも、頑張らないと。
「ケフッケホッ……ゲホッ!」
嫌な咳が出ているのも無視して、わたしは鍔作りを再開した。
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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時