検索窓
今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:24,098 hit

捌 雪 ページ9

「……」
「…………」

気まずい空気が流れ(といっても、煉獄さんの表情は全く変わっていない)、どちらも一言も発せず、沈黙が続く。

「あの……これっ」

長い沈黙を破ったのは、わたしだった。
今から告白をするわけでもないのに、変に緊張してしまって、鍔を差し出す手が震える。
自信はある。わたしらしい作品だと思う。けど、煉獄さんは認めてくれるだろうかと、不安になる。

「これは……」

わたしから鍔を受け取り、壊れ物のようにゆっくりと丁寧に、しげしげと見つめる煉獄さんの仕草1つ1つを目で追ってしまう。
次の言葉を、わたしは待った。
1分は経ったかな?いや、本当は10秒にも満たない、短い時間だったかもしれない。時が止まったように、1秒が長く感じられた。

「美しいな!君らしい、真っ直ぐな鍔だ!」

この装飾は苦労したんじゃないか?と、普通ならば分からないであろうところまで指摘し、頑張ったな、苦労しただろ、凄いぞ、と言葉を続けた。
認められたと、思わず笑みがこぼれた。
何度も誘惑に負けそうになった。このまま逃げ出してしまおうかと。だけど、煉獄さんの笑顔が見れた今なら思う。頑張って良かった、努力は無駄じゃなかったんだと。

「誰が何と言うと、君はもう、立派な鍔職人だ!」
「ありがとうございます……!」

君は泣き虫だなぁと、煉獄さんは困ったように笑うけれど、わたしが泣き止むまで、ただ見守っていてくれた。
わたしはこんなに、涙もろかったんだなぁと、初めて知った。
その日から、わたしたちは直接会うことが増えた。煉獄さんは任務で忙しいため、週に1度会えれば多い方だが、それでも幸せだと思えた。
会えない日は、手紙を送り合う。多いときは、1日に5通もの手紙が届き、思わず頬を緩めたものだ。
煉獄さんは、各地を転々としていて、任務のついでとして、よく土産話を聞かせてくれた。

気が付けば、もう雪が降り出す季節となっていた。
季節の変わり目は、どうしても体調を崩しやすい。気温の変化に、身体がついていけないのだ。
約束を果たしたからといって、鍔作りをやめたわけではない。今もずっと続けている。
わたしの鍔を気に入ってくれる人も増え、名の売れた鍔職人になっていた。それがとても誇らしい。

「頑張らないと」

煉獄さんも、休む間も無く鬼狩りをしている。ならばわたしも、頑張らないと。

「ケフッケホッ……ゲホッ!」

嫌な咳が出ているのも無視して、わたしは鍔作りを再開した。

玖 返却→←漆 職人へ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (51 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
46人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。