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漆 職人へ ページ8

文字は、似たような字になることはあれど、全く同じというわけではない。読みづらい字の人もいるし、読みやすい字の人もいる。価値観もそうだ。
自己同一性。その人の象徴。作品は、作者のそれらを大きく示す。
全ての人が、同じ作品を好むわけではない。だからこそ、わたしたち職人は、多くの作品を生むのだ。
その職人の価値観に、魅入られた人たちのために。
わたしたち職人は、誰かを守ることはできない。けれど……。

「わたしたち職人(作者)は、人の心に触れられます。わたしの作品を認めてくださった方々のために、わたしは胸を張って、前を向きます」

職人としてのわたしを認めてくれる人が、この世界に必ずいる。100人、1000人に認められずとも、1人が認めてくれれば、それで良い。
わたしがわたしだと証明する作品を作れば良い。
だからもう、迷うことはない。

「そうか」

父は満足げに、けれど寂しそうに笑った。
お前ももう、そんなことを言うようになったのか、と誇らしげに。

今朝までは全く進まなかった作業が、つまり物が取れたかのようにスラスラと進む。
わたしが作る作品は、綺麗なものじゃない。何もかもがグダグダで、結局まとまらなくて……でも、それでも、わたしの価値観を認めてくれた人がいる。ならば、迷うことはない。
わたしはただ、わたしの象徴を描けば良い。
5日目、6日目、7日目にして、ようやく、わたしは1つの鍔を作り終えた。
きっともう、これ以上に満足のいく鍔を作ることはできないだろうと思えるほどのものを。

「……出来た!」

それは、決して綺麗じゃない。素人丸出しの彫り方で、ところどころにミスがある。けれど、それ以上に、わたしらしさがある。
誇れば良い。例え認められなくて寂しくても、前を向きさえすれば、認めてくれる人がいる。
ならばもう、苦しむ必要なんてない。
わたしは鍔を手に、あの場所へ向かった。あの、ミモザの花が咲いたところへ。
そこには、人がいた。ミモザと同じ髪色の、先端だけが赤みを帯びた人が。
こちらへ振り向くその姿は、7日前のときと全く変わっていない。なのに、ひどく懐かしい。
不安なんてなかった。煉獄さんが、死んでしまっていたらどうしようと。
煉獄さんは、わたしを認めてくれた。ならばわたしも、彼を信じる。

「煉獄さん!」

けれど、良かったと涙が溢れた。
生きて、ここにいるのだと。

「おかえりなさい!」

煉獄さんは困ったように笑っていた。

捌 雪→←陸 待つ人



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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

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