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伍 求めるもの ページ6

あの日から、わたしは部屋に引きこもる時間が増えた。何をしているのかというと、鍔の重さを調整している。
あまり知られていないが、鍔の重さで、刀の切れ味を良くすることができるため、ほんの数ミリでも削りすぎてはならない。並みのことでは途切れぬ集中力と慎重さを、長時間維持する必要だが、これは鍔職人ならできて当たり前のことなのだそう。

「……」

その日は、食事をとるのも忘れて、鍔の下書きをしていた。仕事は素早く的確に、が鉄則の社会で、普通はありえないことだ。
7日後に帰ってくる煉獄さんは、鬼殺隊の一員になっている。ならば、わたしは約束を果たさなければならない。煉獄さんが鬼殺隊となったとき、あの人の鍔を作るという約束を。

「……これも違う」

修正と失敗を繰り返す。修正しては失敗し、失敗しては修正し、わたしが満足できるものではない、あの人の刀に相応しい鍔を作り続けた。
時間が経つのを忘れ、時折家族に部屋から引きずり出されるのを除けば、3日間などあっと言う間に過ぎてしまった。
あと2日しかない。なのに、前に進めない。
どうすれば……と頭を抱えていたわたしを、父は部屋まで呼び出した。一体何の話だろう?と首を傾げていると、父はある鍔を取り出した。

「これが何か、わかるか?」

わたしの前に差し出された鍔は、孔雀を浮き彫りにした鍔で、羽の1枚1枚が丁寧に表現されている。色も薄い色が多く、上品なイメージだ。これは刀のための鍔というより、装飾品として作られたものなのだろう。

「これは、ある柱の方から依頼されて作った鍔だ。だが、これではないと、随分ご立腹だった」

代わりにこれを持っていかれた、と父が次に差し出した鍔は、酷いものだった。下書きをしていないのだろう、線が斜めってしまっている上に、器具でできた傷跡が目立つ。
前者のような美しい鍔よりも、後者の素人が作ったような鍔を、依頼主は気に入ったのだと、父は困ったように笑う。

「……俺たち職人に、なぜ依頼が来ると思う?」
「腕がいいから、でしょうか」
「それもあるが、違うな」

ではなんだろうかと考えるも、答えは浮かばない。デザインの美しい職人は有名になるし、下手な職人は無名で終わる。
有名な職人と無名な職人が同じものを作ったとよう。無名な職人が作った作品は、無名に終わる。けれど、有名な職人が作った作品は、人に知られることなく消えていく。それが作品だ。

「A。人々は職人に、何を求めると思う?」

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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

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