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肆 進め ページ5

月日は流れ、わたしの鍔作りの腕は格段に……というわけではないが、ほんの少しはマシなものが出来るようになった。
煉獄さんとは、あの日以来会ってはいないけれど、手紙のやり取りをするようになった。
最近はどうだ、や、風邪は引いてないか、など、嫁入りした娘に手紙を出す父親ですかあなたは、と思うような内容だ。人がいないのを良いことに、クスリと笑ったのを覚えている。

「A少女か!」

そんなある日、街で買い出しをしていたとき、誰かに声をかけられた。わたしをA少女、なんて呼ぶ人は1人しかいないのだけれど……。

「煉獄さん!?」

足音も立てずに煉獄さんは、わたしの隣に立っていた。声をかけられるまで気付かなかった。
最初にあった日よりも、煉獄さんは背が伸び、肩幅も男性のそれだった。ほんの数ヶ月しか経っていないのに、一瞬誰か分からなかった。

「息災か?」
「はい。煉獄さんもお元気そうで何よりです」

手紙でやり取りしていたとは言え、やはりまだ緊張してしまう。顔が引きつっていないか、ちゃんと笑えているかが心配だ。

「煉獄さんは……いつもこちらにいらっしゃるんですか?」
「いや!A少女に会いにきた!」

煉獄さん曰く、わたしは街ではちょっとした有名人らしく(良い意味か悪い意味なのかはともなく)、わたしがここでよく買い出しをするのは、既に耳に入っていたのだそう。
最近の情報網はどうなっているんだろう。
道端で立ち話をするのもアレなので、わたしは煉獄さんに連れられて、あの場所へ向かった。ミモザの花は、咲いていない。けれど、忘れるはずのないそこは、煉獄さんと初めて会った場所だった。
久しく会うにも関わらず、わたしたちは親しい友人のように、最近の出来事に花を咲かせた。つまらない話だろうに、煉獄さんは嫌そうな顔1つせず、真剣に聞いてくれたのもある。

「実は今夜、鬼殺隊の最終選別があるんだ!」

唐突に告げた煉獄さんに、わたしは彼が何を言っているのか理解するのに、数秒ほど時間を費やした。
鬼殺隊の最終選別。それで犠牲になった人たちは数知れない。過去には、誰1人として帰ってこなかったこともあるというほど、過酷なものだ。

「……どうか、生きて帰ってくださいね」
「ああ、必ず!」

緊張感がないというか、なんというか。
フフ、と思わず笑ってしまったけれど、煉獄さんは気にもしていない様子だった。
煉獄さんも、歩いている。ならばわたしも、止まったままではいられない。

伍 求めるもの→←参 兄のよう



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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

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