廿 赫怒 ページ21
「なぜ女性に手を出したのか理解できない」
穏やかな声からは、ふつふつと煮えたぎるような怒りが見え隠れする。
そんな杏寿郎に気付いているのかいないのか、鬼は薄紅梅色の髪を揺らして、話の邪魔になると思ったからだ、と悪びれた様子など微塵もない。
「彼女に触るな」
杏寿郎は、鬼からAを隠すように前に出る。
相手は上弦の参。一筋縄ではいかないことなど、杏寿郎は百も承知だ。勝てるかどうかも怪しい。
「お前も鬼にならないか?」
「ならない」
名案だ、とばかりの笑みで手を差し伸べる鬼の誘いを、杏寿郎は一瞬の煩悶も見せずに一蹴する。
「そんな弱者を守って何になる?鬼になれ。そうすれば、永遠に鍛錬できる。強くなれる」
そんな杏寿郎に、鬼は気にした様子も見せずに、強さと鬼の能力、永遠の命について熱心に説く。
この魅力に気付けと言わんばかりに。
「老いることも死ぬことも、人という儚い命の美しさだ。それに、彼女たちは弱くない。強さは、力だけに指す言葉じゃない」
侮辱するな、と吐き捨てる杏寿郎は、刀を握る。
勧誘は無理だと悟ったのか、鬼が不敵な笑みを浮かべ、拳を突き出すように構えると、足元になにかの円陣が描かれた。
「鬼にならないなら、死ね!」
2人が消えた。そう表現するのが最も適切だろう。
並みの視力では、彼らの動きはほとんど見えない。見えたとしても、体がついていかない。技と技、力と力のぶつかり合いは、地面を伝って大きく揺れ、遠くにいたはずの伊之助たちですら、その異変に気が付いた。
だが、伊之助たちが駆けつけたとて、彼らと同じ土俵には上がれない。
それほどまでに、杏寿郎と鬼は強力だった。
最も近くにいる2人の男女も、1人は重傷を負い、もう1人は刀など握ったこともないような一般人。
彼らに何が出来ると言えようか。
誰が、彼らを責めれようか。己が無力さに歯を食いしばり、爪が肉を食い込み肉を抉るほど、拳を握りしめる彼らを、槍のような言葉で責めれようか。
悔しくないわけがない。苦しくないわけがない。
目の前で傷ついていく大切な人に、側で生きたいと願った人に、手を差し伸べられない彼女が、何を思うのかなど、想像に難くない。
片目は潰れ、骨も折れ、内臓も傷つき、それでも守るべきもののために戦う。
このまま戦い続ければ、彼は死ぬ。彼は、傷などすぐに癒える鬼とは違うのだから。
鬼になれ、と叫びながら、彼にトドメを刺そうとする。だがそのとき、鬼はAと目が合った。
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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時