親子はじめました【番外編2】

＿テヒョン ページ30

地面を蹴って小さくブランコを揺らす

キィー、キィー、と古びた鎖の音と
遠くで遊ぶ子供達の声をぼんやり聞いていた


「こんなとこでなにしてんだニート」


後ろから聞こえた声に振り返る


『…ユンギヒョン』

「ここ涼しいな」


隣に座ったヒョンが俺と同じように遠く見た
なにしに来たの、とは聞かないでおく


「たい焼きあるけど食う？」

『うん、』


ヒョンが俺にたい焼きをプレゼントする為に
ここに来たんじゃないってことくらいわかる


『…結婚の話ならしないで』

「なんで」

『今はその話ききたくない』


かぶりついたたい焼きはすごく美味しいけど
なんだかいつもより味がしなかった。


「そう言うと思ったから先に渡しただろ」

『うん？』

「たい焼き」

『はっ！』


握っていたたい焼きをはっと見つめる


『お、おまえ賄賂(わいろ)だったのか！』


この裏切り者！
お前がこんがり美味しそうだったせいで
油断して受け取ってしまった！


「よし、半分は食ってんな。話は聞いてもらう」

『……』

「食いかけを返すな。冗談だよ」


ヒョンの冗談はいつもあんまり面白くない。
そう言おうと思ったけど怒られそうだからやめた
虚しく引っ込めたたい焼きを一口かじる


『…ヒョンはたい焼きあたまから食べる派？しっぽから食べる派？』

「しっぽ」

『姉ちゃんはあたまから食べる派だよ』

「うん、知ってる」

『あんこはこしあんより粒あんが好きなの』

「うん」

『知ってた？』

「知ってた」

『中身、カスタードだと怒るの知ってる？』

「うん」

『猫舌だから熱々だと食べれないのは？』

「知ってる」


食べかけのたい焼きが俺の手の中で少しだけ潰れる


『…姉ちゃんは、おれのことが宇宙でいちばん好きなのは知ってる？』


そう言って顔を上げると、
ユンギヒョンが俺を見て笑った


「知ってるよ」


その顔にぎゅっと胸が苦しくなって
すぐにヒョンから目を逸らす


『ヒョンのばか』

「なんだよ急に」


馬鹿、ユンギヒョンの馬鹿


『俺の姉ちゃんだよ』

「うん」

『俺が世界で、宇宙でいちばん大好きな姉ちゃんなんだよ』

「うん」


怒るつもりが、じわりと視界が歪んでくる
ヒョンにバレるのが嫌で慌てて俯いた。


『連れて行かないでよ、』


俺の知らない世界に、姉ちゃんを連れて行かないで。

＿→←＿

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す