親子はじめました

記憶の隙間 ページ46

『記憶障害…？』

「はい。解離性記憶障害といって、
強いストレスが原因で引き起こす記憶障害です。
その原因となった過去の出来事や感情を
忘れてしまって、思い出せなくなるんです。」

『強いストレス？』

「ジョングク君の場合、
お母さんに置いて行かれたということが
強いショックだったんだと思います。
だからその事実自体を忘れる、という拒絶反応です」

「、それって治るんですか」

「治ります、とは残念ながらハッキリは言えません。
精神的なものなので一時的な場合もありますし、
そうでないこともあります。
定期的にカウンセリングを行いましょう」



一度専門の方に相談を、と
ジン先生から紹介されたセンターに3人で出かけた日曜日。

そこを出る頃には
私もユンギも言葉を失っていた。




『どうしたらいいと思う』

「わかんねぇ」


公園で走り回るグクの姿をベンチから眺める


『ずっと忘れたままなのかな、』


おばさんが、このまま迎えに来なかったら？
グクが思い出す日がずっと来なかったら？
迎えに来たときにグクが忘れたままだったら？

次々に襲ってくる不安が
よけいに私を混乱させていく


「…あいつが。
その方が幸せなら、俺はそれでもいいと思う。」

『え？』

「あの人がもう迎えに来ないなら
辛いことや悲しいことは思い出させないで
俺達がずっとあいつのパパとママでいたほうが良いんじゃないかって、思う」


ユンギが言っている事が痛いほど理解できた。

そしてそれを簡単に口にしたんじゃないってことも、
どんな思いでそんなことを言ったのかも、分かる。

迎えに来るか、わからない。

あの日から私達にはその不安が付きまとっていた


もし、来なかったら。
ユンギの言う通り、思い出さないほうが
グクにとっては幸せなのかもしれない。

ずっと私達といて、
思い出したくない辛いことはずっと仕舞ったままで。


考え込んでいるとユンギの手がぽん、と頭に乗って
ぐしゃぐしゃと髪を撫でる


「ゆっくり考えよう。
俺らが焦ってちゃダメな気がする」

『、うん』

「ままぁー、ぱぱもこっちきてーっ」


小さな手を握って考えた。

わたしは、
グクと過ごすこの日々のことを忘れたくないな

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