56 . 記憶の欠片 ページ7
慧side
だいくんもおいで。
と、看護師さんに呼ばれた君は、首をフルフルと横に振って。
その真っ直ぐな視線は、大きなクリスマスツリーに逆戻り
サンタさんに何をお願いしたの?
みんなと一緒に遊ばない?
今の俺では、そんな些細な一言さえかけてやることが出来ない。
……この時にようやく、自分の無力さを痛感したっけ。
薮先生にそろそろ行こうと声をかけられるも、目の前の小さな男の子のことがどうしても気がかりで。
それに、なんだか、もう会えないような気がしてならなくて。
興味本位だった。
少し腰を折り目線を合わせ、
トントンっと右肩を軽く叩くと、ビクッと肩を震わせて。
大きな黒目がちの目が、パチリと俺を捉えた。
「お兄さん、誰?」
もちろん、俺は言葉を発せない。
ただ君の、小さいのによく伝わる真っ直ぐな声に
しばらく聞き惚れていた。
何を思ったのか、急に歩き出した君。慌ててついていくと、君は長椅子に腰かけた。
どうやら俺の相手をしてくれるらしい。
特に何も考えず、君の右隣に座ろうとすると
「こっちにして。」
と慣れたように左側に手を置く君。
「ごめんね、僕、右眼が見えなくて。」
…正直、どうしたらいいのか分からなかった。
「お兄さん、悲しい顔してる。あの青いお月様みたいだね。」
はぁっ…
この記憶を思い出した今、線がひとつに繋がるのには十分すぎた。
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作者名:朔 | 作成日時:2020年2月1日 23時