67 . 心残り ページ18
涼介side
大ちゃんに連れられるがまま歩き続けると、
宿を出て、防波堤まで来てしまっていた。
握る力を強めても、反応はなく
むしろ歩く速さが増した
その時は今だよね、きっと
「あ、あぁああの…だ、だ…だぁっ!」
だめだ…言葉が作れない…
あんなに慧にいと練習したのに
色んな感情がぐちゃぐちゃになって、
ぎゅっと目を瞑った
「やっと声、聞かせてくれた」
恐る恐る目を開けた先にいたのは
僕の大好きな、優しい声の大ちゃんだった。
.
2人並んで防波堤に腰を下ろす
テトラポットには、
穏やかな波が一定のリズムでぶつかってくる
「さすがに静かだな、夜の海」
「ぁ、あぁ…」
「俺たち以外、誰もいない。他の奴らには秘密な?」
人差し指を立てて悪戯に笑う君の笑顔は
とても綺麗で、儚さも持ち合わせている
「あのさ、俺、もう山田の声聞けないんじゃないかって怖かった。それに…
山田のことが見えなくなるのは、もっと怖くて。
そうなったらさ、俺、生きていけないかも。」
自傷気味に笑う横顔、どう返してあげるのが正解?
「だ、だぃ…じょうぶ。」
"大丈夫"
大ちゃんが欲してるはずのない、保証のつかない言葉
「ごめんな、そんな顔が見たくて言ったつもりじゃ…」
「ち、ちちがうの、ぼ、僕が悪くて…謝るのは僕の方なの。」
これ以上、大ちゃんのごめんは聞きたくない
「あ、ああのね、い、いい、いいまでお話できなくて、さ、避けちゃって、ごご、、ごめっ…なさい!」
とにかく必死で、想い続けてきたことを声にした
しばらく、波の音だけが静かな海に響く
大ちゃんに嫌われたくないな
僕の気持ち、届いたかな
「山田、そんなことずっと気にしてたのか?」
「だ、だって大ちゃんとお話できなくて、き、きのうも助けて貰ったのに何も言えなくて」
「確かにさっきのは本音だけど、それ以上に俺は、山田が生きていく上で発話回避を選んだのならその道を尊重するし、…んー、なんて言うか、上手く言えないんだけど、とにかく山田が生きたい人生を生きて欲しいんだ。」
そこまで考えてくれてたんだ…
「ぼ、僕はもっと、もっと大ちゃんとお話したいです!」
ほんとか?なんて不安そうに言うから、
これでもかという程に大きく頷いた
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作者名:朔 | 作成日時:2020年2月1日 23時