伍拾弍 ページ5
あの後、甘露寺さんと伊黒さんは帰った。
そして、大きな声を出していた我妻さんはアオイさんに怒られていた。
最近、嬉しいことが多いな。
思わず一人でにやけてしまう。
「ふふ、良かった。」
「…え?」
竈門さんが横で此方を覗いていた。
吃驚して肩が跳ねる。
仮にも私は柱である。だから隣に誰かがいるという気配は気づいていて、どうしよう、何か話しかけた方がいいのかしらとも思ったが、うっかり一人の世界に入ってしまったのだ。
こんなにも、近い距離にいるとは思わなかった。
「Aさん、すごく嬉しそうです!」
ホントに良かった、と笑顔を浮かべる竈門さん。
私は慌てて竈門さんに向き合った。
「ほ、ほんっとうに、沢山のご迷惑をおかけしてっ、」
「いやっ!気にしてないです!」
そんな訳がない。初対面であんなに迷惑をかけてしまったのだ。絶対に、どこか思うところがあるだろう。
身体が縮こまる。冷や汗が、湧き上がってきそうな感じ。
そんな時、竈門さんはふんっと何故だろうか分からないが意気込んだ。
ど、どうしたんだろう、私は顔を上げた。
その時ギュッと手を強くにぎられた。
「えっっ…!!か、竈門さんっっ…!!」
こんな時にも関わらず顔が赤くなる。
「Aさんっ!!」
「っっは、はいっ!」
「俺は、嬉しいんです!!
初めてAさんと会った時、Aさんの匂いに泣きたくなりました。
あんなに悲しくて、それでいて凄く優しい匂いがして、初めてそんな匂いの人に出会いました。
そして、いつも苦しんでいる様なそんな感じの匂いがしていて…。」
匂いってなんだろうとも思ったが、すぐに頭を切り替えた。
というか、竈門さんの真っ直ぐな目に絆されてそんなことはどうでも良かった。
「それでも、さっきのAさんからは嬉しそうな匂いしかしませんでした!!
俺はそれが凄く嬉しかったんです!!
だから別に気にしてません!」
さらに顔が赤くなった、気がする。
目を逸らしたくなった。けど、私の中の何かがそれを拒否した。
わたしがずっと聞きたかったこと。
最近、少し気づいていないふりをしていた。
忘れたいって、思っていたから。
《お前みたいな塵が幸せなんか望むんじゃねぇぞ!!
ハッ!塵の幸せなんて誰も望んでねぇ。いいか、お前はずっと…________だからな!!》
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ハルル - とっても面白いですね。続き楽しみにしています! (2021年4月2日 16時) (レス) id: 3ed8831ca6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蔚 | 作成日時:2020年1月13日 21時