向き合う ページ42
「……裕樹からは大体のことしか聞かされていないの。彩が中学でいじめられていたこと、秀明でつらい視線を浴びせられていたこと。いじめについて、その理由や具体的に何をされていたのかは知らないわ」
ママの淡々とした口調からは感情が読み取れず、ただその告げられた内容だけで私は体に力が入るのがわかった。
「彩がいじめられていたことも、苦しんでいたことすら、私は気づけなかった。ごめんなさい、ね。母親として支えてあげられなかったこと、本当に悔やまれるわ」
その声が若干の震えを含んでいることに気づいた私だったけれど、動くことはできない。
パチパチ、と素早い瞬きを繰り返す。緊張からか、瞳の表面が乾燥しているような気がした。
「、違うわよね、……。彩、」
小さく頭を振ったママ。テーブルの上で控えめに組んだ手が今度ははっきりと震えている。
ゆっくり腕を伸ばし、手のひらをその上へと重ねる。ほとんど、無意識の動きだった。
不器用に肌をなぜると、視界の隅に小さな動き。
「ごめ、んなさ、い、彩。ごめんなさい、ごめんなさい……！」
いくつかの雫が、テーブルへと落下していく。ほとんど初めて見たママの涙に、私は驚きを隠すことが出来なかった。
どうしたらいいかわからず、ほんの少しの身じろぎすらできないままテーブルにできた水たまりを見つめる。動揺はしていたけれど、心のどこかでひどく冷静な自分がいることにも気づいていた。
その時私は、『母もひとりの人間である』ことを心から理解したような気がした。
今までの私はママのことを自分を養い育てる母親としてしか見ていなかったんじゃないかって、そう思ったんだ。
きっと私は『母』と『娘』としてと同時に、『人間』と『人間』としてこれから対話をしなければならないんだ。
そしてそれは多分『向き合う』ということに他ならないんじゃないか。
この数秒間で、私はそんな考えに辿り着いていた。
ぎゅ、とママの手を握り、にっこりと微笑む。上手くできているかもわからない笑顔だけれど、ママを安心させようと、落ち着かせようと瞳に感情を精一杯詰め込んだ。
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yuzuka - とっても面白かったです。また色んなお話を書いてください！応援してます (2022年11月2日 20時) (
レス) @page45 id: 81843b67d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぱんだ - めっちゃ面白すぎて今4周しました!これからも頑張ってください! (2022年8月16日 16時) (レス) @page45 id: 09838c8ac8 (このIDを非表示/違反報告)
柚菜 - あーー、感動しましたいいお話をありがとうこれからも頑張ってください (2022年1月15日 13時) (レス) @page44 id: 1216b927b2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - お返事ありがとうございます^^*もちろんです！お待ちしています！ (2021年4月30日 0時) (レス) id: 7efce59d5b (このIDを非表示/違反報告)
HUMA(プロフ) - ゆいさん» ゆいさんコメントありがとうございます。嬉しいです。あと本当にもう少しなのでどうにか終わらせたいです。最後までどうかお付き合いいただければ幸いです。 (2021年4月29日 23時) (レス) id: 75b28dedc0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：HUMA | 作者ホームページ：https://odaibako.net/u/potage1314
作成日時：2016年7月11日 9時
