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ドラパルトと一緒にその大きな手を取り、ナックルに移動することを決めた時に渡された、今の自分を人の街で証明するための書類と身分証。故郷を失くした遭難者やあてのない旅人、外国からの留学者がガラル地方に居座りたいと望んだ時、街で一定期間の行動観察を経て、問題なければ住民としての資格を得ることができるらしい。当人がポケモンを持っていれば街のジムリーダー管轄になり、各ジムのマーク入りの仮身分証が与えられて手持ちポケモンに適した仮住居が紹介してもらえる。ちなみに手持ちのない人間であればジュンサーさんとおまわりさんの管轄になって、オトスパスマークのカードが与えられるらしい。
名前は自筆、年齢はよく覚えていない、今のところ無所属、背格好はエンジンの病院で計測してもらったままの数値、と不審だらけな気もする自分の身分証の末尾にはドラゴンの頭角の形をした判と、保護観察者としてキバナの署名が並んでいる。自己紹介代わりのカードにいつも描いているポケモンの似顔絵風サインではなく、簡素な流線形で綴られたキバナの名前。なんとも不思議な感じがする。
今の自分がやらなければいけないのは、食事や掃除等の少しの手助けと、職を得て一人で生活できるようになるまでの力を身に着けること。そして少しでも早く、数多の恩に報いる手段を増やすことだ。
身分証を元通りしまって、書斎から拝借した本を広げる。分厚い手触りの中ページをめくっていけば、活字の現代語が一気に私の中に流れ込んできて、分からない単語が小さなささくれになって降り積もっていく。予想と文脈を継ぎあてながら、深く深く、キバナの住む時代に、現代に自分の価値観を合わせていく。
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作者名:aks | 作者ホームページ:http://alterego.ifdef.jp/
作成日時:2023年3月21日 20時