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「Aさん、すっかり標準語も慣れたようですね」
「喋るのはな。読解の方はそうでもないらしい。さすがに子供用は卒業できそうだが…オレも定期的に時間作ってるが中々難しくてなあ、言葉の途中を教えるってのは」
「確かにそうですね、母国語がどうしたら喋れるかなんて、よく分からないですもん。正式に習ったわけではないですし」
「暮らすのには全然問題ないから、そんなに心配しなくていいとは言ってるんだけど、やっぱ少しは気にしてる風だからなあ…どうすっかねぇ」
このままリョウタに教えを乞うには時期が悪い。これから筆頭ジムトレーナーとして、レナとヒトミと共にチャレンジャー達を相手取ってもらわねばならない。それが終わったらジムリーダーである自分のバックアップが待っている。各ジムのリーダー達が己の存亡をかけてチャンピオンカップに挑んでいる間、ジムトレーナー達がその城を護る、彼らの助力なくしてジム運営は成り立たない。リーダー不在の時の手腕でもって、後続の選別をするなんてジムもあるくらいだ。
「このガラルでガラル語が習える?…ナックルユニバーシティの留学生向けガラル語講座とか、でしょうか?夜間学校の友達が受けたと言っていたような」
「…、それだ!ナイス、ヒトミ!」
ナックルシティと同じだけの長い歴史を持ち、ガラルの学び舎の象徴にもなっている我らが母校、ナックルユニバーシティ。
文化財の扱いや言語学、歴史学を花形として、その知見と技術力目当てに世界中の学生が集まってくるのは毎年のことだ。自分の在学中にも、他地方の顔立ちをした面々がザラにいたのをよく覚えている。記憶と共に講堂の木机の感触が蘇ってくる。そういえば見張り塔の部屋でも古ぼけたその匂いがして、古代語の会話も相まって授業を思い出すことがよくあった。
せっかくはるばるやって来た有望な若者を言葉の問題なんぞでとんぼがえりさせてたまるか、学問と一緒に標準語も教え込んでしまえばいいじゃないか…と熱血に語っていたのは自分の恩師の教授だったか。そんな経緯もあって若干詰め込み気味なプログラムではあるが、通年でガラル語講座が開かれているのをすっかり失念していた。最高学府として身分証代わりの推薦状はいるが、経歴とナックルジムリーダーの後ろ盾があればまず拒否されることはないだろう。
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作者名:aks | 作者ホームページ:http://alterego.ifdef.jp/
作成日時:2023年3月21日 20時