急展開ー長妻 ページ29
「…嘘だろ…?」
週末の夜。大勢の客で賑わう居酒屋。
珍しく永瀬が誘ってくれたから意気揚々とついてきたのに、
乾杯して開口一番、永瀬の口から出た言葉に絶句した。
「ほんま。俺がやめよう言うた」
「はっ!?なんで…!?あんなにベタ惚れだったじゃん!」
手にしていたジョッキをカウンターに勢いよく置いてしまったから、隣の客がギョッとした顔をしてるけど気にしてなんていられない。
「今も惚れてるよ。せやからやめたの」
「意味わかんないよ…
「…俺もわからん。ほんまに自分アホやと思うよ。
…けどなぁ、なんかスッキリしてるんよ」
「スッキリ?婚約破棄したのに?」
「うん…
あのさ、ずっと前に俺が言うたこと覚えてる?
賭けってやつ」
「あぁ…一緒に暮らす前に言ってたね」
「そう。Aさんとの間にある見えない壁を取り払いたくて、少しでも俺の方を見て欲しくて、思い切って一緒に暮らしてみようと思ったんよ。
気持ちが変わる可能性に賭けてさ」
「変わったじゃん!結婚してくれるって…」
「俺とももに対する義務感からな」
前の一点を見つめながら、ピシャリと言う永瀬に言葉を失った。
迷いも隙もない、すべてを悟っている横顔に畏怖すら感じる。
「…変わらへんって、心の奥底ではわかってた。
ももの父親のことをどれだけ好きなんか、何度も何度も思い知らされてきて分かってたからな。
それでも、これまでそばにおり続けたのは、諦める勇気がなかったから」
それで…大学の頃から好きで好きで何年もそばに居続けた人を諦めるだなんて、
馬鹿だよ。せっかく結婚できる段階まできてたのに、なんで…
疑問が溢れて止まらないけれど、当の本人は涼しい顔してるから何も言えない。
「ほんまにアホやろ?笑ってくれ」
「笑えないよ…」
「ははっ。ほんなら自分で笑うよ」
「笑うなよっ!」
張り上げた声に永瀬だけでなく周囲の騒いでいた客たちも鎮まり返り、一気に視線を感じた。
けど、どうでもいい。
「笑うのは…ダサい奴相手にだろ。。
全然ダサくないし!
…うまく言えないけど、好きな人の本当の幸せを願ったお前をすげーカッコ良くて立派だと思うよ!!
お前に乾杯だよ!!」
手にしたジョッキを永瀬に向けて差し出すと、ポカンとした表情が一転破顔し、笑い出す。
笑ってる永瀬とは対称的に泣きそうな俺。
永瀬が納得してるのが一番納得いかない。
なんで、そんな強くいられるんだよ。
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愛 - 続きはまだでしょうか?急かしてるわけではなく、純粋にこのお話が好きすぎて続きが気になるんです!更新待ってます。 (2019年7月26日 23時) (レス) id: 88c3d5de1a (このIDを非表示/違反報告)
すこ - 引き込まれました。キャラクターたちの心情を、一人ひとり大事に大事に書かれてるように思います。切なくて、でもお互いを大切に思っていて、すごく素敵な作品だと思います。次の更新を楽しみにして待ってます。 (2019年7月4日 1時) (レス) id: ca0d230652 (このIDを非表示/違反報告)
atu66mi67yu129(プロフ) - 更新ありがとうございます。廉くんとは…ならないんですかねぇ…これからも楽しみに待ってます。頑張ってください。 (2019年7月3日 7時) (レス) id: c65eb063a4 (このIDを非表示/違反報告)
シー(プロフ) - 1から6まで一気に読んだくらい本当に面白いです!更新頑張ってください!! (2019年7月1日 7時) (レス) id: dfd347ea96 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - こんなに引き込まれた小説は久しぶりで、一気に読みました。続きを楽しみにしています。 (2019年6月11日 14時) (レス) id: e8aeac1cf5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピナパル | 作成日時:2018年10月22日 8時