透明造花 [Koki.K] (ページ39)

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「ねえ、今日俺の前の席は休みなの？」

右隣のひょろっとした男に声を掛けると、そいつは「へ？」っと素っ頓狂な声を上げて俺を見た。

「Aなら昨日から風邪で休みだけど…。知り合い？」
「うん、知り合い。ありがと」

残念だけど、これもこれから始まる物語への序章だと思えば悪くない。

キミは覚えているかな。
あれはきっとまだプロローグ。

土砂降りの雨の中、足早に過ぎ去る人々の並に抗ってしゃがみ込む1人の女の子。小さな身体は何かを守るように必死に抱え込んでいた。

雨、アスファルト、濡れる革靴、ビニール傘

モノクロの世界の中でキミの差す真っ赤な傘だけが俺には浮かび上がって見えたんだ。

自分を犠牲にしてまで女の子が傘を差し出し濡れないようにしていたのは
雑踏に踏みつけられないように守っていたのは

2匹の捨て猫だった。

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